歯間清掃と舌ブラシで健康長寿に期待

2026年6月26日 公開

高齢者約1万人の追跡調査で死亡リスク低下との関連を確認

ポイント

  • 口腔内の細菌は誤嚥性肺炎の原因となることが知られていますが、地域で自立して暮らす高齢者における口腔ケアと死亡リスクとの関係は十分に明らかになっていませんでした。
  • 全国の高齢者9,676人を6年間追跡した結果、歯間清掃具や舌ブラシを使用している人では、全死因死亡リスクが有意に低いことが明らかになりました。
  • 歯間清掃や舌ブラシといった簡便で低コストな口腔保健行動が、健康寿命の延伸や健康長寿の実現に寄与する可能性が示されました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野のワン・ケウェイ(王柯煒)大学院生、相田潤教授らの研究チームは、全国の65歳以上の高齢者を対象とした大規模追跡データを分析し、複数の日常的な口腔保健行動と全死因死亡リスクとの関連を検証しました。

歯間清掃具の画像

本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用い、標的試験エミュレーション(Target Trial Emulation)の枠組みに基づいて、日常的な口腔保健行動と死亡リスクとの関連を検討しました。歯が1本以上あり、機能的に自立している地域在住高齢者9,676人を6年間追跡した結果、死亡発生率は1,000人年あたり17.3件でした。さまざまな背景要因を考慮して解析した結果、歯間清掃具を使用している人では死亡リスクが約11%、舌ブラシを使用している人では約23%低いことが明らかになりました。

これらの結果から、簡便かつ低コストな口腔保健行動が、高齢社会における健康長寿の実現に寄与する可能性が示されました。

本研究成果は、2026年5月23日付で国際学術誌「Journal of Dentistry」オンライン版に掲載されました。

背景

誤嚥性肺炎は高齢者の主要な死因の1つであり、口腔のケアが病院や介護施設における肺炎の発症を減少させることが知られています。しかし、比較的健康で要介護認定を受けていない高齢者において、口腔のセルフケアが死亡率に及ぼす長期的な影響は十分に明らかになっていません。

そこで本研究では、複数の日常的な口腔保健行動が全死因死亡リスクの低下と関連するかどうか、また、その関連が社会人口統計学的要因、行動要因、および健康関連要因によってどのように変化(修飾)するかを検証することを目的としました。

研究成果

本研究では、高齢者9,676人を6年間追跡したデータを分析し、7つの日常的な口腔保健行動と全死因死亡リスクとの関連を検証しました。対象とした口腔保健行動は、(1)1日2回以上の歯磨き、(2)歯間清掃具(デンタルフロスや歯間ブラシ)の使用、(3)舌ブラシの使用、(4)歯磨剤の使用、(5)液体歯みがき(洗口液、マウスウォッシュ)の使用、(6)過去12カ月以内の歯科治療のための受診、(7)過去12カ月以内の歯科健診のための受診、の7項目です。

分析の結果、死亡発生率は1,000人年あたり17.3件でした。年齢、性別、社会経済状況、生活習慣、健康状態などの影響を考慮して解析したところ、歯間清掃具を使用している人では全死因死亡リスクが約11%低く(逆確率重みづけした調整済みハザード比[HR]=0.89、95%信頼区間=0.80–0.99)、舌ブラシを使用している人では約23%低いことが明らかになりました(HR=0.77、95%信頼区間=0.68–0.87)(図1、表1)。

図1. 日常的な口腔保健行動と高齢者の全死因死亡リスクとの関連(n=9,676、6年の追跡)
表1. 日常的な口腔保健行動と全死因死亡の分布とハザード比
死亡数/対象者数 (%) 死亡発生率(1000人年あたり件数) 調整済み
ハザード比 (95%CI) *3
歯磨き
1日2回未満 313/2249 (13.9) 23.7 1.00 (Ref.)
1日2回以上 686/7427 (9.2) 15.3 0.96 (0.87;1.07)
歯間清掃具*1
非利用者 667/5224 (12.8) 21.6 1.00 (Ref.)
利用者 332/4452 (7.5) 12.3 0.89 (0.80;0.99)
舌ブラシ
非利用者 960/9011 (10.7) 17.9 1.00 (Ref.)
利用者 39/666 (5.9) 9.6 0.77 (0.68;0.87)
歯磨剤
非利用者 406/3453 (11.8) 19.8 1.00 (Ref.)
利用者 593/6223 (9.5) 15.9 0.98 (0.89;1.09)
液体歯みがき*2
非利用者 838/8003 (10.5) 17.5 1.00 (Ref.)
利用者 161/1673 (9.6) 16.1 1.03 (0.92;1.15)
過去12カ月以内の歯科受診
歯科治療のための受診
受診なし 367/3058 (12.0) 20.2 1.00 (Ref.)
受診あり 632/6618 (9.6) 15.9 1.01 (0.90;1.13)
歯科健診のための受診
受診なし 469/3955 (11.9) 20.1 1.00 (Ref.)
受診あり 530/5721 (9.3) 15.4 0.99 (0.88;1.13)

*1 歯間清掃具: デンタルフロスや歯間ブラシを指します
*2 液体歯みがき: 洗口液やマウスウォッシュを含みます
*3 逆確率重みづけした調整済みハザード比(図と同じものです)

また、年齢、性別、社会経済状況、生活習慣、健康状態などによる層別解析を行った結果、これらの関連の強さに明確な違いは認められず、口腔保健行動と死亡リスクとの関連はさまざまな集団で一貫して認められました。

社会的インパクト

本研究により、歯間清掃や舌ブラシの使用が、高齢者の死亡リスクの低下と関連する可能性が示されました。これらの簡便かつ低コストな口腔保健行動は、健康寿命の延伸や健康長寿の実現に寄与する可能性があります。

超高齢社会を迎えた日本において、日常生活の中で取り組みやすい口腔保健行動の重要性を示す知見として、高齢者の健康づくりや介護予防施策への活用が期待されます。

今後の展開

今後は、歯間清掃具や舌ブラシの使用が死亡リスクの低下と関連する仕組みについて、誤嚥性肺炎の予防効果を含めた潜在的なメカニズムをさらに解明していく必要があります。

付記

本研究は、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2180)、公益財団法人富徳会の研究助成、日本学術振興会科学研究費助成事業(20H00557、20K10540、21H03196、 21K17302、22H00934、22H03299、22K04450、22K13558、22K17409、23H00449、23H03117、23K21500、23K27807、 24K02658)、厚生労働科学研究費補助金(19FA1012、19FA2001、21FA1012、22FA2001、22FA1010、22FG2001、 26FA1401)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JPMJOP1831)、公益財団法人健康・体力づくり事業財団令和4年度健康運動指導研究助成、TMDU重点研究領域、国立研究開発法人防災科学技術研究所などの支援を受けて実施されました。

論文情報

掲載誌:
Journal of Dentistry
タイトル:
Routine oral health practices and all-cause mortality among older Japanese adults: A 6-year cohort study
著者:
Kewei Wang, Yusuke Matsuyama, Sakura Kiuchi, Taro Kusama, Duc Sy Minh Ho, Jun Aida

研究者プロフィール

ワン・ケウェイ(王 柯煒)Kewei Wang

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 大学院生
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

松山 祐輔 Yusuke Matsuyama

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

木内 桜 Sakura Kiuchi

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 助教
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

草間 太郎 Taro Kusama

東北大学大学院 歯学研究科 国際歯科保健学分野 講師
研究分野:健康行動、公衆衛生学、疫学、歯科保健

ドゥック・シー・ミン・ホー Duc Sy Minh Ho

Hue University of Medicine and Pharmacy, Hue University
研究分野:Oral Epidemiology

相田 潤 Jun Aida

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

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教授 相田 潤

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