次世代メモリを支え、温めると縮む性質も併せ持つ新材料をつくる

2026年3月3日 公開

元素の入れ替えが引き出したビスマスフェライトの新しい性質

どんな研究?

私たちがふだん使っている材料は、温めると少し膨らみ、冷やすと元に戻ります。このような熱に関係する性質以外にも、材料には電気の性質や、磁石の性質があり、わたしたちは、それらを別々のものとして利用してきました。しかし、様々な性質が一つの物質の中に共存する材料があります。このような材料の研究は、情報機器の消費電力を抑えながら情報を記録・保持する次世代メモリ材料の実現にもつながると期待されています。

その代表例が、「マルチフェロイック材料」です。電気を蓄えるコンデンサーの性質と磁石の性質をあわせ持っています。中でも、ビスマスフェライト(BiFeO₃)は、この分野で最も集中的に研究されてきた物質の一つです。外から電圧をかけると、蓄えられた電気の向きを変えることができ、その変化が磁石の性質をも変化させます。

このような特徴から、電力をほとんど使わずに情報を書き換え、しかも簡単に読み出すことができる次世代メモリ材料として期待されています。その理由は、電気の向きはほとんどエネルギーを使わずに変えられる一方で読み取るのが難しく、逆に、磁石の向きを読み取るのは簡単であるものの、向きを変えるにはエネルギーが必要なためです。

画像提供:東正樹教授

ただし、ビスマスフェライトの内部には、磁石の性質を持つ鉄イオンが多数あり、その沢山の磁石が一定の方向にそろわず、波打つように向きを変えながら並んでいます。そのため、磁石どうしの効果が互いに打ち消され、外から見ると磁気がほとんど現れません。その結果、磁気の性質を材料として十分に活かすことが難しい状態が続いてきました。

これまでの研究では、鉄の一部をコバルトに置き換えることで、材料の中の小さな磁石の並び方が変わり、室温でも磁石として振る舞うようになることが示されていました。ただし、その磁気は弱く、周囲の影響を受けやすいという課題が残されていました。

ここが重要

こうした課題を踏まえ、東京科学大学(Science Tokyo)の東正樹(あずま・まさき)教授らの研究チームは、「元素の入れ替え方」そのものを見直しました。ポイントは、これまでの実験結果と理論研究の知見を手がかりに、原子の中の小さな磁石のふるまいに強く影響を与える元素を選ぶことです。

研究チームは、コバルトの代わりにどの元素を用いると磁石の性質が強まるかを理論的に予測し、鉄の一部をルテニウムやイリジウムといった重い元素に置き換えました。ビスマスフェライトではビスマスも鉄も3価で、3つあるマイナス2価の酸素との間で電荷のバランスが取れています。ところがルテニウムやイリジウムは4価のイオンになりやすいので、そのままでは電荷のバランスが崩れてしまいます。そこで、ビスマスの一部を2価のカルシウムでも置き換え、全体のつり合いを保つ工夫をしました。理論的な見通しに加えてこうした工夫を重ねたことが、この研究の成否を分ける大きな挑戦でした。

実験の結果、材料の中の小さな磁石はばらばらに揺れる状態から抜け出し、外からも磁気としてはっきり分かる状態が実現しました。特にルテニウムやイリジウムを含む材料では、磁気が周囲の影響を受けにくくなり、従来の材料と比べて約4倍の安定性が確認されました。これは、情報を長期間安定して保持する必要がある次世代メモリ材料にとって、極めて重要な特性です。

さらに研究を進める中で、もう一つの特徴が明らかになりました。温度を上げると、材料がわずかに縮むという、ビスマスフェライトには見られなかった現象が確認されたのです。しかも、それが日常的な温度の範囲で起こることがわかりました。このように、温度が上がると縮む材料を通常の材料と組み合わせることができれば、温度変化によるひずみや劣化を抑えることができます。

今後の展望

本研究の成果は、電圧で情報を書き込み、磁気で読み出す新しいメモリ材料への応用が期待されています。磁気が安定して保たれることは、低消費電力で確実に情報を記録するために欠かせません。さらに、この材料は温度を上げると縮むという特徴も示しており、温度変化による変形や内部の応力が問題となる精密機器の分野でも役立つ可能性があります。研究チームはこれまでにも負熱膨張材料の実用化に取り組んできており、今回の成果についても、将来的な社会実装を見据えた展開が期待されます。

研究者のひとこと

元素をどのように入れ替えるかによって、材料のふるまいは大きく変わります。元素の組み合わせをしっかりと考えて設計することと、予想外の結果が出たときにその面白さや使い道に気付くこと、どちらもが材料研究には大切だと考えています。今回は狙った通りの磁石の性質を引き出せたことに加え、温めると縮む「負熱膨張」という予想外の現象を発見する幸運にも恵まれました。
(東正樹:東京科学大学 総合研究院 自律システム材料学研究センター/フロンティア材料研究所 教授)

東正樹教授

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