どんな研究?
朝食を食べてからどれくらいたったか、音楽の次の拍に合わせていつ手をたたくか。私たちの脳は、過ぎた時間をとらえるだけでなく、これから起こす行動のタイミングも見計らっています。これまでの研究から、特に秒単位の時間の経過は、脳の一か所だけでなく、複数の領域で表されることが分かっていました。
その中でも、時間の処理に重要とされているのが、脳の前方にある二次運動野(M2)と、頭頂部の後方にある後頭頂皮質(PPC)です。この2つの領域の間には、神経細胞どうしのつながりがあります。しかし、時間を扱うときに、いつも同じように働くのか、それぞれが別々に時間を追うこともあるのかは、よく分かっていませんでした。
では、この2つの領域は、実際にはどのように時間を刻んでいるのでしょうか。
東京科学大学(Science Tokyo)の今村啓人(いまむら・ひろと)大学院生、平理一郎(ひら・りいちろう)准教授、 礒村宜和(いそむら・よしかず)教授らを中心とする研究チームは、6秒と12秒の間隔を交互に予測する課題に取り組むマウスの脳で、M2とPPCにある数千個の神経細胞の活動を同時に捉えました。さらに、その神経活動をもとに2つの脳領域の働きをコンピューター上に再現し、時間を処理する仕組みを探りました。
ここが重要
まず、実際のマウスの脳活動を解析すると、M2とPPCはいつも同じ時間を刻んでいるわけではありませんでした。研究チームが神経活動から経過時間を推定すると、実際の時間とのずれが2つの領域で同じように現れる場合だけでなく、片方だけに現れる場合もありました。しかも、片方だけがずれるケースは、2つがそろってずれるケースのおよそ2倍見られました。つまり、2つの領域は足並みをそろえながら、ときには別々にも時間を追っていたのです。
また、実際の脳活動を詳しく調べると、M2とPPCには、互いに連動しながらゆっくり強まったり弱まったりする神経活動が見られました。研究チームは、この特徴を取り入れた計算モデルをつくり、2つの領域がどのように協調したり別々に働いたりするのかを調べました。
モデルを解析すると、2つの領域を結ぶわずかな神経のつながりは、両者の時間のずれを抑える方向に働きました。一方、両方のネットワークに共通するゆっくりした活動の変化を与えた場合には、2つのネットワークは互いにすぐ足並みをそろえ直すのではなく、それぞれが先に安定した活動状態に戻り、その後で再び足並みをそろえる動きを示しました。このため、2つのネットワークは別々に時間を追うことができたと考えられます。
今後の展望
時間には、空間の座標のような絶対的な基準がありません。そのため脳は、異なる出来事からどれくらい時間が経ったかを、それぞれ追う必要があります。すべての脳領域がいつも同じ時計に従わないことは、欠点ではなく、複数の時間を扱うための柔軟な仕組みなのかもしれません。
今回の成果は、複数の脳領域が連携しながらも、それぞれに情報を処理できる理由を理解する手がかりになります。今後、より多くの脳領域を調べることで、脳全体が状況に応じて働き方を切り替える仕組みの理解につながると期待されます。
研究者のひとこと
脳はだいたいの場合、一つのことにしか集中できません。例えば普通は二つの音楽を同時に聴いて楽しむことはできないですし、右目と左目で別の映画を同時に見るような人もあまりいません。このように脳はまとまりがないものを扱うのはあまり得意ではないのです。逆に、ひとつのまとまりがあると、それに集中したり、楽しむことができます。私たちはたくさんのニューロンがどうやってこの「まとまり」を作るのに興味があります。おそらくこの「まとまり」が、脳がつくる「こころ」に関係しているのではないでしょうか。
(平理一郎:東京科学大学 医歯学総合研究科 細胞生理学分野 准教授)
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