どんな研究?
自然界の微生物は、ばらばらに存在しているわけではありません。たとえば、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう:腸内にすむ細菌の集まり)やバイオフィルムなどでは、多くの微生物が空間的に配置され、複雑な3D構造をつくって暮らしています。
こうした立体的な配置は、微生物がどのように生き、働くかにも関わっています。いる場所によって、受け取れる栄養や酸素が変わり、周囲にいる微生物も変わるためです。
ところが、このような3Dの微生物環境を実験室で再現するのは簡単ではありません。従来は、立体的な形を保つためにゲルなどで固定する方法が一般的でした。しかし、固体化すると、液体の中で物質が移動しやすいという性質が失われてしまいます。
そこで東京科学大学(Science Tokyo)の田中祐圭(たなか・まさよし)准教授を中心とする研究チームは、液体の中に微生物の3D構造を描き、その形を保つ方法を開発しました。そして、このように液体の中につくられた微生物の3D構造を、浮遊を意味する「Float」と、コロニーを意味する「Colony」を組み合わせて「フロートニー(Floatony)」と名付けました。この方法には、もともと飲料の中に立体的な液体パターンを描くために開発された液体描画技術が応用されています。
ここが重要
研究チームは、大腸菌を含む液体をインクのように使い、別の液体の中に線や立体を描きました。液体の中では、描いたものは沈んだり浮いたりして形を保つのが難しくなります。そこで、周囲の液体の流れやすさや変形しやすさを調整し、液体のままでも、細菌で描いた形を安定して保てる条件を明らかにしました。
しかも、形を保つために細菌を固めているわけではありません。大腸菌はその中で生きて増殖でき、さらに小さな分子が周囲の液体へ拡散できることも確認されました。つまり、微生物の空間配置を保ちながら、液体中での物質移動も可能です。
さらに、実際に液体の中へ文字を描いたほか、ダイヤモンド形やDNAを思わせるらせん状の3D構造もつくることができました。最適な条件では、こうした立体構造が少なくとも72時間保たれました。
今後の展望
フロートニーを使えば、微生物の種類や位置、立体的な配置を設計しながら、その配置が微生物の働きや相互作用にどのような影響を与えるかを調べられるようになると期待されます。
将来的には、腸内細菌叢やバイオフィルムなど、複雑な空間構造をもつ微生物環境の再現にもつながる可能性があります。
研究者のひとこと
自然界では、微生物は「何がいるか」だけでなく、「どこにいるか」も重要です。ところが、実験室ではこれまで、その空間的な配置を自由に設計して調べることは簡単ではありませんでした。フロートニーを使って、微生物の位置や形を一つの実験条件として扱えるようになれば、これまで見えなかった微生物どうしの関係や働きが見えてくるのではないかと期待しています。
(田中祐圭:東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 准教授)
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