9月30日から10月4日の5日間、東京科学大学(Science Tokyo)※ 環境・社会理工学院 融合理工学系の野原佳代子研究室・朱心茹研究室は、ノルウェー科学技術大学(NTNU)・韓国科学技術院(KAIST)・清華大学(THU)・中国科学技術院(UCAS)と共同で、SoMaT (Sociomaterial Transformation in Norway and East Asia )Graduate Schoolを開催しました。全5大学から30人の学生が参加しました。
- 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。

SoMaT Graduate Schoolは、NTNUの運営とノルウェーリサーチカウンシルの協力で、5ヵ年プロジェクトとして実施されています。NTNUと共に参加する学校は、東アジアからKAIST・THU・UCASそしてScience Tokyoです。SoMaTプロジェクトは、官民による事例の研究を活用し、社会に影響を与える科学技術主導の変革について、最先端の国際的かつ学際的な知識を生み出すことを目指し、NTNUおよび日中韓の研究者・学生間の国際協力を深めるプロジェクトです。持続可能性・デジタル化・多様性という3つのテーマ領域に関する人文科学ベースの科学技術研究(STS)の枠組みで取り組んでいます。これまでオンラインで学生や教授による研究内容の共有を行ってきました。そうした活動の一環として、参加している5大学の修士・博士課程学生が集い、毎年持ち回りでGraduate Schoolを開催することになっています。初年度となる今回のGraduate Schoolは東京での開催となり、野原研究室が、NTNUと協力して運営を担いました。
5日間のプログラム
東京でのSoMaT Graduate Schoolは9月30日から10月4日まで実施されました。
ノルウェー・中国・日本・韓国の5大学から修士・博士課程学生約30人が東京に集い、フィールドワークとディスカッションを通して持続可能性・デジタル化・多様性に関する新しい洞察を得ました。
初日は大岡山キャンパス緑が丘6号館・緑が丘ホールにて実施しました。
午前中はNTNUの教員からの概要説明や講義、そして野原教授からScience Tokyoの紹介と講義(社会変革を捉えるフレームとしての翻訳について)を行い、その後は全員でつばめテラスにて昼食としました。午後はリーダーシップ教育院・リベラルアーツ研究教育院のキヤマ・ロリンダ・ロバートソン教授による俳句の講義から始まりました。留学生向けに日本の俳句の講義もされているキヤマ教授から俳句の楽しみ方や作り方の紹介を受け、参加学生たちは2日目に予定されているフィールドワークでの体験から俳句を読むことになりました。
その後、グループワークが始まりました。各学生の所属大学、専門、そして修士・博士の所属課程を考慮し、あらかじめ5グループに分けられた学生たちは、ようやく同じグループのメンバーと顔合わせしました。まずはアイスブレイクとして、パスタを用いてできるだけ大きな建築を作りました。各グループの仲が温まった後は、2日目から行う課題についての案内です。野原研究室 石井諒太研究員から、2日目のフィールドワークの訪問場所について説明を行いました。グループごとにリサーチする5つの訪問場所は、持続可能性・デジタル化・多様性のテーマに適合し、SoMaTにご協力頂いた東京近郊の機関・組織から選ばれています。各グループは、1人の博士課程学生と5人の修士学生の6人で構成されています。訪問場所や滞在時間については事前に運営側で調整をしていますが、博士課程が主導してインタビューなどの調査計画を十分に議論していました。内容の豊富な初日のプログラムはここで終了しました。
2日目はフィールドワークです。今回訪問のご協力を頂いたのは、環境・社会理工学院建築学系の塚本由晴教授が携わっている千葉県釜沼村の里山、渋谷川ルネッサンス、下北沢のBONUS TRACK(ボーナストラック)、二子玉川のライズショッピングセンターのルーフトップガーデン、そして東京臨海部(第五福竜丸展示室など)の5つの訪問先です。それぞれの訪問先で、野原研究室の学生たちも、大変な通訳や、付き添い、写真撮影などサポートを行いました。案内を聞くだけでなく質問したり、他の来訪者に対してインタビューを行ったり、映像を撮ったりするなど、参加学生たちは積極的に調査を行っていました。




3日目は緑が丘6号館 緑が丘ホールに戻っての開催となり、講義とグループワークを行いました。
初日に講義を行ったNTNUを除く、東アジアの4大学の教授から講義が提供されました。科学技術社会論や科学哲学、メディア論などについて話が及びました。Science Tokyoからはリベラルアーツ研究教育院の調麻佐志教授が水俣病をケーススタディに科学者が抱える責任についての講義を行いました。また、野原教授は、翻訳学から見える異質なもの同士の交流について、このスクールへの期待も込めて講義を行いました。
講義の後にはグループワークを行い、前日のフィールドワークからの学びを整理し、発表のための計画を立てました。

4日目は渋谷キューズに移動し、5人の博士課程学生が行なっている研究手法の共有、Science Tokyoの名誉教授で国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)で所長を務める山口しのぶ教授による講演、そして翌日に控えたプレゼンテーションのためのワークを行いました。
各グループ1人の計5人の博士課程学生によるプレゼンテーションでは、研究の視点や手法について修士学生に向けて発表されました。研究対象が違っても、研究のヒントとなる素材が提供されました。
山口教授は、かつて東京工業大学 学術国際情報センターで教授を務めており、国際協力分野における、教育とICT、世界遺産保存への科学技術の活用などの研究・実務に携わってこられました。山口教授の講演では、国連大学の組織や研究内容の紹介だけではなく、国連が対象にしている地球的規模の課題を認識できるインタラクティブなクイズ形式でのプレゼンテーションで、科学技術と社会との関係を考える参加学生にとって、国際的な視野に立つことを後押しする機会となりました。
いよいよ翌日に迫った最終日は、各班のプレゼンテーションが予定されています。フィールドワークで訪れた場所について、調査内容や発見、考察をまとめたプレゼンテーション・ポスターの仕上げに取り掛かりました。


濃密な5日間のプログラムも最終日に入りました。昨日と同様に渋谷キューズでの開催で、使用スペースは渋谷キューズの利用者であれば、誰でも発表やトークに参加できるようなオープンなエリアです。
各班の学びが写真と共に整理された明快で美しいポスターが円形の外縁に設置されたボードに掛けられ、その内側では席が並べられています。SoMaT参加学生や教員の他に、フィールドワークにご協力いただいたNPO法人渋谷川ルネッサンスや塚本研究室のメンバー、講義いただいた調教授、そしてご支援いただいているノルウェーリサーチカウンシルの方々などです。緊張感に包まれた会場で、5グループが順番に発表を行いました。


スライドだけではなく、映像の使用や、TV番組のインタビュー形式で進行するなど、個性豊かな発表が続きました。グループでの議論によって生み出された視点が共有され、その場所に行っていない学生や聴衆でも彼らの発見や学びを理解することができました。各発表後は積極的に質問が集まり、彼らの提案した課題や対応策について議論されました。
全ての発表が終わったところで、ここまで懸命にプログラムに取り組んだ学生たちに修了証が授与されました。加えて、フィールドワークで各々の学生の詠みたい言語で作成してもらった俳句を、ブックカードにして配布しました。
最後に、その場でゲストも含め全ての参加者でネットワーキングランチとしました。日中韓とノルウェーの4言語で乾杯をし、これまでの努力を労りました。
グループメンバーと濃密に過ごした5日間も遂に終わり、仲良くなった学生同士で写真を撮ったり、お土産を渡したりしつつ、解散となりました。
参加したScience Tokyoの学生からのコメント
周天朔さん (環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程1年)
今回のSoMaTイベントでは、世界各国のトップレベルの教授陣や優秀な学生たちと共に講義やグループワークに参加する機会を得て、普段の講義では得られない知見を得ることができました。また、異文化理解を深める素晴らしい経験にもなりました。このような素晴らしい出会いに感謝し、嬉しく思います。
奥津朋巳さん(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程 2年)
今回のSoMaT October Schoolへの参加は、私にとって素晴らしい経験となりました。多様なバックグラウンドを持つ刺激的な教授陣や学生たちから多くを学び、様々な面で視野を広げることができました。また、チームとしてより良い協働を育むための貴重な知見も得ることができました。新しい友情を育むことができたことにも感謝しています!このような素晴らしい機会を与えていただき、ありがとうございました。
余楊鴻さん(情報理工学院 数理・計算科学系 博士後期課程 1年)
このイベントは、新しいアイデアを探求し、知識を得て、新しい人間関係を得るための素晴らしい舞台でした。様々な研究者から多くを学び、良い友人関係を築くことができました。参加者の皆さんはとても親切で責任感があり、共に素晴らしい時間を過ごすことができました。私が今まで参加した中で最高のイベントの一つだと言えます。
運営側の視点から
野原研究室 石井諒太研究員からの感想
フィールドワークの場所の選定と交渉は私の役割でした。SoMaTのテーマに沿って慎重に選びましたが、各場所が参加学生にとって有意義な学びの機会となるのか、ずっと不安でいました。しかし、学生たちは主体的に調査し、深く考察し、活発に議論を展開してくれました。彼らの積極的な姿勢に驚かされました。発表を聞きながら、学生たちの優秀さに感嘆していました。
フィールドワークではその一つに参加し、暗渠化された渋谷川の痕跡を辿り、都市生活と自然の共存について考える機会をサポートしました。終了後にグループの昼食に誘ってもらい、そこで清華大学のある博士課程の学生とたくさん会話をして親しくなりました。プログラムの最終日、その学生が清華大学のポストカードにメッセージを書いて贈ってくれました。さすが清華大学の学生だけあって、そのメッセージには詩が添えられていました。私は修士課程を終えたばかりで参加学生と年齢が重なるため、同行した渋谷川グループの学生とは近い距離で接することができました。同じ目線で記憶を残すことができ、そして最後に温かい感謝のメッセージを頂き、このプロジェクトに携わってよかったと噛み締めて終えることができました。
関連リンク
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野原佳代子・朱心茹研究室
石井諒太
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