令和8年(2026年)春の叙勲において、長年にわたる教育研究の功労に対し、東京科学大学(Science Tokyo)の池田駿介名誉教授、北原和夫名誉教授、中野義夫名誉教授、山下靖雄名誉教授、𠮷田朋好名誉教授が瑞宝中綬章を受章しました。
池田駿介名誉教授/瑞宝中綬章
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私は、大学紛争の余波が冷めやらぬ1971年に東京大学工学系研究科博士課程を1年で中退し、東京工業大学工学部土木工学科助手として採用されました。当時、土木工学科は創設からまだ時間が経っておらず、日本を代表する学科にしようとスタッフ全員で奮闘していました。私は、水理学、流体力学が専門ですが、当時水工学講座には我が国を代表する教授、新進気鋭の助教授が揃っており、それまで他大学で微温湯的な雰囲気の中で過ごしてきた自分は厳しい議論についていけず、何とかしようと日夜勉学・研究に励みました。その後、埼玉大学に助教授として赴任し15年間過ごした後、再び東京工業大学にお世話になりました。
東京工業大学では、河道の土砂水理学、植生の流体力学、マングローブの環境水理学などのテーマについて、助手や学生さんたちとともにシミュレーション・実験・現地観測を通じて研究を行いました。また、国際的な研究活動も大切と考え、日米・日英・日蘭の共同研究を推進しました。学内では教育関係の活動が中心で、全学教育委員会委員長を務めたほか、一橋大学や東京医科歯科大学との単位互換などを担当しました。如水会館で議論をした日々が懐かしく思い出されます。
学外では、日本学術会議、日本工学会、日本工学アカデミーなどで活動しましたが、専門である土木学会、流体力学会においてその改革に携われたことは大きな経験となりました。年齢を重ねてからは、技術士制度の改革・国際化、公正研究推進協会創設による技術倫理の普及を通じて、若手技術者の人材育成に取り組みました。
今回の受章は、導いてくださった諸先輩方、同僚、一緒に研究に取り組んだ学生の皆さんをはじめ、多くの方々のご支援の賜物であり、心から感謝申し上げます。
北原和夫名誉教授/瑞宝中綬章
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この度、叙勲の栄誉を賜りました。これは、長年にわたり私の非平衡統計物理の研究と教育活動を支えてくださった方々のおかげであり、深く感謝しております。とりわけ、1984年から1998年の東京工業大学(東工大)在職中には、議論や助言をくださった同僚の先生方、職員の方々に支えていただきました。優秀な学部生や大学院生たち、そして国内外からの訪問者とともに、思う存分研究と教育に邁進できたこと、さらに大学周辺の街の技術者の方々との交流から得た刺激は、研究の幅を広げる貴重な機会となり、楽しい思い出です。
私が着任した理学部応用物理学科は学際的な雰囲気があり、また学内の組織を超えた研究会も定期的に開催されていました。当時の学内誌「東工大クロニクル」では、常にさまざまなホットな研究が紹介されており、大規模ではないながらも東工大の良さを感じました。
東工大から国際基督教大学に移ったあとも、名誉教授として繋がりを保てたことに感謝しております。
新たな東京科学大学が、さらに発展していくことを祈念いたします。
中野義夫名誉教授/瑞宝中綬章
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百拙百味。瑞宝中綬章という身に余る栄誉を賜り、お世話になりました方々に深く感謝申し上げます。東京工業大学には、1992年6月に大学院総合理工学研究科教授として採用いただき、化学環境工学専攻における教育、研究、運営に尽力してまいりました。
研究では、微細な細孔を有する無機多孔体/三次元網目構造を有する高分子ゲルの「構造と多機能(環境応答/認識/反応/分離など)」を基軸に、化学工学/機能性材料/環境の広範な分野で研鑽を積み、学生と共に大きな成果を上げることができました。特に、高分子ゲルの「構造と多機能」では、温度/溶液組成等の物理・化学的な操作でゲル網目構造/物性を可逆的に制御する手法を考案し、有価あるいは有害物質の分離濃縮回収するシステムを構築しました。環境に優しい天然分子抽出ゲルによる有害金属イオンの無害化、希薄な有価金属イオン(金、銀等の貴金属、白金族、一般金属)の還元濃縮回収型の新規な「ゲル/液マイクロ反応・分離システム」の開発にも取り組みました。また、集大成として、科学/工学の架け橋となる『ゲルテクノロジーハンドブック:機能設計・評価、シミュレーションから製造プロセス・製品化まで』を監修しました。
門下生の多くが、国内外の企業、大学、研究機関など、それぞれの道で活躍していることは、大変喜ばしい気持ちでいっぱいです。
東京科学大学のさらなる発展を祈念いたします。
山下靖雄名誉教授/瑞宝中綬章
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私は1971年4月、東京医科歯科大学歯学部口腔解剖学第一講座の文部教官助手に採用されて以来、講師、助教授、教授として39年間にわたり解剖学の教育と研究に従事することができました。その間、特に人体解剖学実習においては、献体された方々の悲願でもある「良き医師、良き歯科医師」を育てるという重要な使命を念頭に置き、学生の指導に臨みました。
また、人体の形態と構造の本質を理解するには、系統並びに個体発生学的アプローチが必須であるとする本教室の研究理念に基づき、歯や骨を構成する硬組織の特徴を究明する研究の推進と後進の育成に努めました。一方では、歯科臨床分野に所属する大学院生を受け入れ、各種歯科材料等の生体適応性を形態学的に評価する研究や、口腔諸組織の発育と加齢に伴う構造変化の特徴を明らかにする研究の指導にも携わりました。
この度、はからずも叙勲の栄に浴したことは身に余る光栄であり、東京医科歯科大学で教授を務めた29年間において、歯科基礎医学の分野の中でも極めて重要な役割を担う解剖学を担当できたことは、この上ない幸せであったと思っている次第です。
𠮷田朋好名誉教授/瑞宝中綬章
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私は東工大理学部数学教室に15年間勤務し、教育面では、線形代数学や多様体論等の講義を学部と大学院で担当しました。
研究面では、位相幾何学、特に2、3次元多様体の幾何構造とゲージ理論に関する研究を行いました。3次元双曲多様体の2次特性類を数論的特殊関数で表す結果を得ることができ、後に結び目のジョーンズ多項式についての体積予想と関連して、多くの人に興味を持っていただくことができました。また、Instanton Floerホモロジーの次数計算のために作り出した3次元多様体の分割と境界値問題によるIndexの計算方法は、幾人かの研究者によって一般化され、発展させられました。退職後も、共形場理論による2次元と3次元のゲージ理論の統一的な理解が得られないかと努力しております。
東工大在職中は多くの学部生、大学院生と知己を得ることができ、また私と同じテーマを研究する研究者になられた方もおり、大変幸いに思っております。
私の頭の中では、自分と勲章とがどうにも結びつかず、いまだに落ち着かない気持ちもありますが、ともあれ、今回の受章には深く感謝しております。