どんな研究?
歯は、表面の硬いエナメル質だけでなく、歯ぐきの骨にしっかり固定される歯の根っこ(歯根)があってこそ機能します。食べる、話す、顔の形を保つ ―― 歯は、私たちの日常を支える大切な存在です。
これまで、歯の根っこの先端にある根尖乳頭(こんせんにゅうとう(AP))という場所には、何種類ものAP細胞があり、その中に根っこを作るための幹細胞があることは知られていました。しかし、どの細胞がどのように動き、どんな仕組みで歯根を作っているのかは謎でした。
ここが重要
東京科学大学(Science Tokyo)の永田瑞(ながた・みずき)助教、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校のワニダ・オノ(Wanida Ono)教授、米国テキサス大学の小野法明(おの・のりあき)教授らの研究グループは、歯根が作られ始めると同時に、CXCL12という物質を出すAP細胞(CXCL12+ AP細胞)が現れることを見つけました。そしてこの特別な細胞が指令塔となり、その他のAP細胞と協力しあって、歯の根っこをつくることを突き止めたのです。
この司令塔細胞、CXCL12+ AP細胞、を詳しく調べると、さらに驚くべきことがわかりました。この細胞は、歯の内側にある硬い部分(象牙質)を作る細胞「象牙芽細胞」にも、外側の薄い膜(セメント質)を作る「セメント芽細胞」にもなることが判明したのです。従来は、それぞれ別の細胞グループから作られると考えられていましたが、実際にはこの一つの細胞集団が根っこの内側と外側の両方を形作っていたのです。
さらに、CXCL12+ AP細胞が正しく働くには、WntシグナルとTGF-βシグナルという、AP内の細胞に伝わる信号が欠かせないこともわかりました。Wntシグナルは、CXCL12+ AP細胞を形成すべき場所へと方向に導き、正しく根っこを作る機能を発現するスイッチの役割を果たします。そして、TGF-βシグナルもWntシグナルと連動して歯根形成に作用していました。つまり、WntとTGF-βという2つの信号のバランスが、歯根形成を正しく進める鍵を握っているのです。
今後の展望
この発見は、歯根形成の仕組みを解明するだけでなく、歯根の再生医療や幹細胞治療にも大きく貢献する可能性を持っています。もし自分の細胞を使って歯根を再生できれば、人工歯では得られない自然な噛み心地を取り戻せます。今回発見されたCXCL12+ AP細胞は、その再生に使える「種細胞」として注目されています。
また、この司令塔細胞は、普段は根っこを作ることに特化していますが、状況に応じて柔軟に役割を変える性質も持っています。たとえば、歯の周囲の組織が傷ついたり、顎の骨を修復する必要が生じた場合、骨を作る「骨芽細胞」に変わることもできます。歯根や顎の骨の再生医療への応用が、いっそう現実味を帯びてきました。
研究者のひとこと
歯の根っこは、健康な歯を維持するだけでなく、その周りの骨、ひいては口腔全体を健康に保つためにも重要な組織です。その形成のしくみを理解することは、単に歯の研究にとどまらず、体の再生医療全体にもつながるテーマです。
体の中の幹細胞の役割を深く理解することによって、将来的にはむし歯や歯周病で失われた歯や骨を、より効率的に再生させる新しい治療につながると信じています。
(永田瑞:東京科学大学 医歯学総合研究科 歯周病学分野 助教)
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