どんな研究?
靴を選ぶとき、まず目に入るのは色やデザインでしょう。しかし、歩きやすさや疲れにくさは、あまり目立たない靴底の素材にも左右されます。材料の世界でも、主役となる物質だけでなく、それを支える材料が全体の働きを変えることがあります。
東京科学大学(Science Tokyo)の大友順一郎(おおとも・じゅんいちろう)教授の研究チームは、これまで、鉄などの金属が酸素を受け取ったり放したりする性質を利用して、気候変動の原因物質である二酸化炭素(CO₂)を資源として活用する方法を研究してきました。
その一つが、CO₂を一酸化炭素(CO)に変えるケミカルルーピングです。鉄にCO₂を接触させると、鉄がCO₂から酸素を受け取り、CO₂は一酸化炭素(CO)に変わります。酸素を受け取った鉄は酸化鉄になりますが、水素を使って酸素を取り除けば、再び元の鉄として使えます。このように、鉄の酸化と還元を繰り返しながらCO₂を変換する方法が、ケミカルルーピングです(関連記事「黒い石と水蒸気が、未来のエネルギーをつくる:カーボンニュートラル技術の突破口」)。生成されるCOは、ガソリンや軽油など、さまざまな化学品をつくる原料として利用できます。特に、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用して水の電気分解で合成した水素によって得られたCOは、気候変動問題の解決に貢献する未来の合成燃料(イーフューエル:e-Fuel)の原料物質としても期待されています。
鉄を効率よく反応させるには、できるだけ多くの部分がCO₂に触れる状態を保つ必要があります。そのため、細かな鉄の粒を、土台となる別の材料に広く分散させて使います。この土台はサポート材料と呼ばれ、これまでは鉄の粒を安定した状態に保つための脇役と考えられてきました。
ところが、一部の研究から、サポート材料は鉄を支えるだけでなく、反応そのものを助けている可能性が見えてきました。しかし、サポート材料がどのように鉄の反応を速めるのか、その仕組みは分かっていませんでした。
ここが重要
研究チームは、鉄を支えるサポート材料の違いによって反応の速さが変わるのかを確かめるため、性質の異なる複数の材料を比較しました。すると、チタン酸カルシウム(CaTiO3)を構成するチタンの一部を鉄に置き換えた材料が高い効果を示しました。この材料の中では、電子と、電気を帯びた酸素の両方が動きやすくなっています。この材料をサポート材料にすると、CO₂と鉄の反応が最も速く進み、酸素だけが動きやすい材料を使った場合と比べて、反応速度を示す値が約3倍になりました。また、別の反応装置を使った試験では、反応したCO₂から、ほぼCOだけをつくることができました。
詳しく調べると、鉄とサポート材料が接する場所で電子と酸素が移動し、CO₂から鉄への酸素の受け渡しを助けていることが分かりました。鉄を支えるだけの脇役と思われていた土台であるサポート材料が、実は鉄と協力して反応を進めていたのです。
今後の展望
これまでサポート材料は、鉄を安定した状態に保つことを重視して選ばれてきました。今回、サポート材料の中を電子と酸素が動きやすいことが、鉄の反応を速める鍵だと分かりました。この性質を手がかりに、鉄の働きをより引き出せるサポート材料を探すことで、CO₂から燃料や化学品の原料を、より効率よくつくる技術につながると期待されます。
研究者のひとこと
この研究の大きな狙いは、気候変動に影響を及ぼす二酸化炭素の循環的な利用技術の確立です。鉄は身近な物質ですが、二酸化炭素の還元反応に利用できます。同じ鉄でも、足元を変えると動きが変わります。今回の研究で面白いのは、まさにその点です。土台は鉄をじっと支えているだけではなく、酸素の受け渡しにも加わっていました。材料の性能を高めるには、主役そのものを変えるだけでなく、主役が力を発揮できる環境を整える方法もあります。
なお、今回の研究は三菱電機株式会社 先端技術総合研究所の塩田有波(しおた・あるふぁ)氏らとの共同研究の成果です(関連記事)。この技術を実際の現場で実現するためには会社の協力が必要です。社会で役立つその瞬間を共同研究の仲間と迎えられることを、楽しみにしています。
(大友順一郎:東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 教授)
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