Science Tokyo設立記念 総合研究院キックオフシンポジウム—知の融合が生む新たな可能性—を開催

2025年6月10日 公開

Science Tokyo設立記念 総合研究院キックオフシンポジウム 集合写真

東京科学大学(Science Tokyo)は4月25日、湯島キャンパスの鈴木章夫記念講堂で、Science Tokyo設立記念 総合研究院キックオフシンポジウム—知の融合が生む新たな可能性—を開催しました。総合研究院は、研究者の興味に根差した研究を推進しつつ異分野の叡智を総合することにより、革新的な科学・技術を開拓することを通じて新たな研究領域を創成し、将来の産業基盤および医療基盤の構築を意識した研究成果を創出することを使命とするScience Tokyo最大の研究院です。本シンポジウムではScience Tokyoの新たな研究の中核として2024年10月に新大学と同時に設立された総合研究院の始動を記念し、その理念や方向性の紹介および最先端基礎研究の融合研究事例に関する講演が行われました。

シンポジウムには、本学の学生・教職員、卒業生をはじめとして、他の大学・研究機関や民間企業、行政職員など660人を超える参加者が、会場およびオンラインのハイブリッド形式で参加しました。

第1部

総合研究院のキックオフを記念して、来賓よりお祝いや激励の言葉が送られました。また、特別講演として細野秀雄栄誉教授および大隅良典栄誉教授より講演がありました。

開会あいさつ

仁科博史(総合研究院長)

Science Tokyoが有する総合研究院、未来社会創成研究院、新産業創成研究院の3つの研究院の関係と特徴について触れたうえで、「総合研究院が卓越した基礎研究を推進し、研究者の融合および新分野の形成を促すことで、Science Tokyoの研究力を担っていく」とScience Tokyoにおける総合研究院の位置づけについて紹介しました。

仁科博史(総合研究院長)

学長あいさつ

田中雄二郎学長

総合研究院には研究のエンジンとして、Science Tokyoの研究を牽引してほしいと述べました。また、世界のいくつかの大学においては、理工学系と医歯学系が融合した領域で大きな業績が出ていることを取り上げ、Science Tokyoでも融合研究に力を入れて、総合研究院がその力を発揮することに期待を寄せました。

田中雄二郎学長

来賓あいさつ

松浦重和氏(文部科学省大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当))

総合研究院では多様なバックグラウンドを持つ研究者が有機的に連携することにより、異分野の英知を総合して新しい技術の開発や知の創造に取り組むことで、エネルギー、気候変動、少子高齢化、感染症などのさまざまな社会課題の解決につながるような研究成果が生まれることに対して期待を寄せました。
さらに、Science Tokyoが日本の研究力のハブとなるような役割を期待したいと述べました。

松浦重和氏(文部科学省大臣官房審議官(研究振興局及び高等教育政策連携担当))

三島良直氏(日本医療研究開発機構(AMED) 前理事長/東京工業大学名誉教授 元学長)

「研究成果が薬となって実装されるまでのプロセスをスピーディに行うために最も重要な点は、プロセスの短縮化ではなく、丁寧で質の高い基礎研究がたくさん生み出されることと、製薬企業や知財の専門家などを含めた多様な人材と薬になるまでのストーリー作りを行うことである」とAMEDで得た知見を述べ、総合研究院における基礎研究への取り組みとシンポジウムのテーマである「知の融合」の意義を強調しました。

三島良直氏(日本医療研究開発機構(AMED) 前理事長/東京工業大学名誉教授 元学長)

杉本亜砂子氏(東北大学 理事・副学長(研究))

東北大学とScience Tokyo両学における研究分野などのこれまでの連携の取り組みをさらに深化させるとともに、引き続き大学改革のよき同志として歩んでいきたいとの旨が述べられました。

杉本亜砂子氏(東北大学 理事・副学長(研究))

中島啓氏(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 教授/国際数学連合 総裁)

国際数学連合での経験から、研究者がコミュニティで活動することが自身の研究活動や若手研究者の育成に重要であること、および、日本の研究成果を世界にアピールしていくことの重要性を指摘しました。

中島啓氏(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 教授/国際数学連合 総裁)

特別講演:
フロンティアは辺境にあり:新物質・材料の研究を通して

細野秀雄(東京科学大学 栄誉教授/元素戦略MDX研究センター 特命教授)

IGZOの発明とその実用化などをはじめとした、30年以上にわたる本学で開始した材料研究を振り返りました。「30年前に研究を始めたときには現在の分野にまで展開することは到底想像できなかった」と語り、これまでの常識を覆すような研究に挑戦し続けることで、新たな研究領域の道が開けることを示唆しました。また、熱気にあふれた研究環境を作り、Science Tokyoとして新たな学術と社会貢献をともに生み出していきましょうと、エールを送りました。

  • IGZO:インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)を含む酸化物(通称イグゾー)
細野秀雄(東京科学大学 栄誉教授/元素戦略MDX研究センター 特命教授)

特別講演:
総合研究院に期待すること

大隅良典(東京科学大学 栄誉教授/細胞制御工学研究センター 特任教授)

東京医科歯科大学と東京工業大学の統合が相互補完的な統合であったことに触れつつ、総合研究院は異分野融合研究を行うことへの絶好のチャンスであると述べました。また、研究者同士の相互理解や他領域への研究に対する興味を持つことなど、研究者が持つべきマインドの面と国際交流の促進や若手研究者の挑戦を応援する制度、研究者が集中して研究できる環境整備など、研究支援の面について必要条件を挙げて、Science Tokyo総合研究院が「日本で最も研究しやすい研究機関」になることへ、期待を込めました。

大隅良典(東京科学大学 栄誉教授/細胞制御工学研究センター 特任教授)

第2部

総合研究院を代表する研究者より各研究所・センターの概要説明の後に、現在取り組んでいる先端研究が紹介されました。幅広い研究分野における知の融合の可能性が示されました。

計算・データ科学に立脚した新規無機材料の設計・探索

大場史康(フロンティア材料研究所 教授)

計算・データ科学手法による予測からこれまで全く報告されていない新しい物質・材料を探索する取り組みが紹介され、実験グループと共同研究することで実験による実証ができた事例が出てきたことも報告されました。さらに、多様な物性の解析・解釈から材料研究者の新たな気づきを誘発することやデータ駆動で新たな材料設計指針を導出することが期待されます。

大場史康(フロンティア材料研究所 教授)

精密高分子設計を基盤とする医療用スマートナノマシンの開発

西山伸宏(化学生命科学研究所 教授)

さまざまなセンサや薬剤などの機能を搭載したナノスケールの医療機器「ナノマシン」が体内の微小環境を自立巡回し、体の中で検出・診断・治療ができるようになる技術開発について紹介し、現在取り組んでいる課題として健康寿命延伸に向けた老化制御のナノマシンを挙げて、医学と工学が連携することでさまざまなイノベーションを起こしていきたいと語りました。

西山伸宏(化学生命科学研究所 教授)

One Health推進に貢献するエレクトロニクスの創出

伊藤浩之(未来産業技術研究所 教授)

人間だけでなく動物や環境を含めて全体の健全性を高める必要があるというOne Healthの考え方の実践のため、あらゆるモノの状態をセンシング可能にする技術開発により医療・ヘルスケア、環境・動物のウェルフェア・国土保全などの社会課題の解決へ応用している事例が紹介されました。また、今後の展開として医工連携や継続的なスタートアップの設立に意欲的に取り組む旨が語られました。

伊藤浩之(未来産業技術研究所 教授)

マルチエージェント・オーケストレーションによる汎用AIの実装とZero UIを志向した医療アプリケーションへの応用

中島義和(生体材料工学研究所 教授)

データやアルゴリズムの種類と意味を解釈し、それらを自動で接続してデータ共有させるバックエンドAIを具現化することにより、膨大な種類と意味合いを持つデータが混在している医療機関において、汎用的なAIの実現を模索していることが紹介されました。また、マウスやキーボードを使うことができない医療現場では、画像AIや音声AIによってUI(ユーザーインターフェース)の障壁を越え、コンピュータを使っている感覚なしで、ヒト・モノ・コンピュータおよびコト(業務)のすべてが、コンピュータで自然につながる展望が示されました。

中島義和(生体材料工学研究所 教授)

ゼロカーボンエネルギー研究所が進める医工連携研究

林﨑規託(ゼロカーボンエネルギー研究所 教授)

放射線医療は、医学・物理学・化学・工学・生物学に関する知と技術の結集が必要であり、医歯学と理工学の連携の力が最も発揮される分野のひとつであることが述べられました。DNAに基づく放射線感受性の予測制御、核医学量子イメージング技術、重粒子線治療用入射器の開発、核燃料物質医療資源化プロジェクトなど、ゼロカーボンエネルギー研究所が創出した成果や技術を東京科学大学病院で社会実装を目指すという構想が紹介されました。

林﨑規託(ゼロカーボンエネルギー研究所 教授)

AI時代の難治疾患研究

島村徹平(難治疾患研究所 教授)

深層生成モデルを用いた細胞・分子生物学の応用研究の事例として細胞ダイナミクスからの疾患メカニズムの解明・制御および新規分子阻害薬の設計・最適化の2つの事例を紹介しました。また、今後の研究手法として、AIが予測・設計、ロボットが実験を行い、人が洞察するという手順を説明しました。その結果、研究速度10倍、コスト5分の1を目指すという意欲的な目標が提示され、難治疾患の原因解明と治療法創出をさらに加速していく旨が述べられました。

島村徹平(難治疾患研究所 教授)

超精密自己位置推定

上妻幹旺(量子航法研究センター 教授)

GPSに頼らずに自己位置を推定するには、加速度計とジャイロスコープを用いた慣性航法が不可欠ですが、精度の低さが大きな課題でした。携帯可能な装置として世界最高性能の光ファイバージャイロを実現したことで、これを組み込んだ慣性航法装置の性能を従来製品の100倍まで向上させた成果が紹介されました。さらに自ら開発した光ファイバージャイロの限界を超えるべく、量子ジャイロスコープの研究を並行して進め、移動体内でも動作可能な新しい原理を提案・実証しました。加えて、超高精度な慣性航法装置を活用し、地球のジオイドをリアルタイムかつ空間的に連続して測定し、地震後の洪水予測に応用する研究も推進しています。今後は、「天測航法」の研究にも視野を広げ、民間航空機の安全確保や月面での活動など、さらなる応用に向けた技術開発に取り組む方針が示されました。
※ジオイド:重力による位置エネルギーが等しい面のこと。

上妻幹旺(量子航法研究センター 教授)

閉会あいさつ

栁田保子(総合研究院 副研究院長/教授)

各講演内容を簡潔に振り返りながら、総合研究院では多様な分野が交わりながら研究が進行しており、そうした分野横断的な研究が総合研究院の価値を生み出していくという考えを示しました。そして、「各ステークホルダーと連携して、総合研究院は世界に貢献する知のプラットフォームとして発展していきたい」と今後の展望を述べ、シンポジウムを締めくくりました。

栁田保子(総合研究院 副研究院長/教授)

3時間に及んだ本シンポジウムは、総合研究院の融合研究が生み出す新たな可能性への期待感を共有する、価値ある時間となりました。

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研究院事務部 キックオフシンポジウム事務担当