光合成アンテナの性能を酵素で調整

2026年5月22日 公開

シアノバクテリアの色素代謝設計に新指針

ポイント

  • 光合成微生物シアノバクテリア[用語1]は、フィコビリソーム[用語2]と呼ばれる集光性アンテナ複合体を用いて光エネルギーを効率よく集めています。
  • フィコビリソームにはビリン[用語3]という化合物が結合しています。ビリンには複数の種があり、結合するビリンによってフィコビリソームが吸収する光波長が異なります。
  • 研究グループは、緑色光を吸収する色素フィコエリスロビリン(PEB)[用語4]を合成する3種類の酵素系をシアノバクテリアに導入し、その働きを比較しました。
  • 同じPEB合成でも、酵素の種類によってPEB蓄積量、フィコビリソームの安定性、光エネルギー伝達効率が大きく異なることを明らかにしました。特に一部の酵素では、フィコビリソーム構造を保ったまま緑色光利用能を高め、細胞増殖を促進することがわかりました。
  • さらに、色素代謝の改変が細胞内の酸化還元バランス[用語5]や炭素代謝にも影響することを示しました。
  • 本成果は、光合成微生物の高効率化や人工光合成デバイスの設計に向けた新たな指針となることが期待されます。

概要

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所の前田海成助教は、東京農業大学 大学院バイオサイエンス専攻 佐藤瑞穂、岩田みさき 修士課程学生(研究当時)、渡辺智教授、荷村(松根)かおり博士研究員、東京都立大学 大学院理学研究科 渡辺麻衣特任助教、成川礼准教授、および東京大学 池内昌彦名誉教授らの研究グループと共同で、光合成微生物シアノバクテリアの集光アンテナ複合体フィコビリソームの機能が、導入する色素合成酵素の違いによって大きく変化することを明らかにしました。

研究グループは、緑色光を吸収する色素フィコエリスロビリン(PEB)を合成する3種類の酵素系(PebA/PebB、PebS、PcyX)をシアノバクテリアに導入し、それぞれの効果を比較しました。その結果、酵素ごとにPEBの蓄積量やフィコビリソーム構造への影響が異なり、特にPcyXを導入した株ではフィコビリソーム構造を保ちながら緑色光の利用効率が高まり、細胞増殖が促進されることを見いだしました。

本研究は、光合成装置を単に改変するだけでなく、「どの酵素で色素を作るか」が性能を左右することを示したものであり、今後の光合成細胞工学に重要な知見を与える成果です。

本研究成果は5月22日付で国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究成果

シアノバクテリアは、地球上で広く分布する光合成微生物であり、CO2を吸収しながら有用物質を生産できる次世代バイオものづくりホストとして注目されています。これらの生物は、太陽光を効率よく集めるためにフィコビリソームという大型の集光アンテナ複合体を備えています(図1)。

図1. 集光性アンテナ複合体フィコビリソーム

フィコビリソームはタンパク質と色素(ビリン)から構成され、色素の種類によって吸収できる光の色が変わります。研究グループはこれまで、緑色光を吸収するPEBを人工的に導入することでフィコビリソーム機能を変えられることを報告してきました。

今回の研究では、PEBを合成する3種類の酵素系に注目しました。一般的な二段階酵素系であるPebA/PebB、海洋性ファージ由来であり単一酵素で反応を進めるPebS、および環境ゲノム情報から見出されたPcyXを比較し、シアノバクテリア細胞内での働きを調べました(図2)。

図2. シアノバクテリアにおけるPEB合成酵素の異種発現

その結果、PebA/PebBおよびPebSではPEB蓄積量が高くなる一方、フィコビリソーム複合体が部分的に小型化・不安定化することが確認されました。これに対しPcyXではPEB蓄積量は比較的穏やかでありながら、フィコビリソーム構造を保ったまま緑色光の吸収エネルギーを光合成装置へ効率よく伝達できることが示されました(図3)。

図3. PEB合成酵素発現によるフィコビリソームへの影響

さらに遺伝子発現解析の結果、PEB蓄積は細胞内の酸化還元バランスや糖代謝関連遺伝子の発現にも影響することがわかりました。これは、光捕集アンテナの改変が細胞全体の代謝状態にも波及することを示しています。

今後の展開

本研究により、光合成微生物の性能向上には「色素を増やすこと」だけでなく、「どの酵素で、どの程度の速度で色素を作るか」を設計することが重要であると示されました。

今後は、フィコビリソーム構造を維持しながらより高効率に緑色光を利用できる株の開発や、複数色素を組み合わせた次世代型集光アンテナの創出が期待されます。また、人工光合成材料や太陽エネルギー利用デバイスへの応用にもつながる可能性があります。

さらに、ウイルス由来酵素など自然界の多様な代謝酵素を活用することで、従来の生物が持たない新しい光合成機能を設計できる可能性が広がります。

付記

本研究は、JSPS科研費(23H02130, 24H00869, and 24H00871)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(JPNP17005)、および東京農業大学生物資源ゲノム解析センター生物資源ゲノム解析拠点事業の支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1]
シアノバクテリア:藍藻とも呼ばれる光合成微生物。植物の葉緑体の祖先とされる。
[用語2]
フィコビリソーム:シアノバクテリアなどに存在する集光アンテナ複合体。光を吸収し、光合成反応中心へエネルギーを伝える。シアノバクテリアの細胞内のチラコイド膜上に存在する。
[用語3]
ビリン:光を吸収する色素分子。フィコビリソームタンパク質に結合して働く。
[用語4]
フィコエリスロビリン:緑色光を効率よく吸収する赤色系ビリン色素。
[用語5]
酸化還元バランス:細胞内で電子の受け渡しを調整する代謝状態。光合成やエネルギー生産に重要。

論文情報

掲載誌:
Scientific Reports
タイトル:
Comparative Study of Phycoerythrobilin Synthases for Fine-Tuning Photosynthetic Light-Harvesting Complexes, Phycobilisomes
著者:
Mizuho Sato, Mai Watanabe, Misaki Iwata, Kaisei Maeda, Kaori Nimura-Matsune, Masahiko Ikeuchi, Rei Narikawa, and Satoru Watanabe

関連リンク

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東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科
教授 渡辺 智

東京都立大学 大学院 理学研究科
准教授 成川 礼

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所
助教 前田 海成

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東京科学大学 総務企画部 広報課