患者さんに必要な臓器を届けるために――臓器づくりを妨げる免疫の仕組みを解明

2026年10月13日 公開

発生初期のマクロファージが別の種の細胞を排除する「ゼノファゴサイトーシス」を発見

どんな研究?

病気などで臓器の働きが失われた患者さんを助けるため、移植に使える臓器を新たにつくる研究が進められています。その方法の一つが、動物の体内で、別の動物の細胞から臓器をつくる技術です。

東京科学大学(Science Tokyo)の中内啓光(なかうち・ひろみつ)特別栄誉教授を中心とする研究チームは、これまでに、膵臓をつくれないようにしたマウスの胚に、さまざまな細胞になれるラットの多能性幹細胞を入れることで、マウスの体内にラット由来の膵臓をつくることに成功していました。こうした技術を発展させ、将来は移植を必要とする患者さんのために臓器をつくることを目指しています。

しかし、マウスとラットはどちらもネズミの仲間ですが、別の種です。種が違う組み合わせでは、発生の途中でラット由来の細胞が急激に減ってしまうということが起きます。その原因は、これまでは、発生する速さや細胞どうしの相性の違いなどだと考えられてきました。

Giovanni Cancemi/Shutterstock.com

ところが、ラット由来の細胞が減り始める時期は、胚の中に最初の免疫細胞が現れる時期でもありました。そこで研究チームは、免疫細胞が何か関係しているのではないかと考えました。

ここが重要

研究チームが注目したのは、発生初期に現れるマクロファージという免疫細胞です。マクロファージには、体内の異物や不要になった細胞などを取り込み、処理する働きがあります。

そこで、ラット由来の細胞が減っていく時期の胚を詳しく調べたところ、マウス側のマクロファージの中に、ラット由来の細胞が取り込まれていることが分かりました。しかも、取り込まれていた細胞の多くは、すでに死んだ細胞ではなく、まだ生きている細胞でした。つまり、マクロファージは死んだ細胞などを処理していただけではなく、まだ生きている別の種の細胞を選んで排除していたのです。研究チームは、この現象を「ゼノファゴサイトーシス」と名付けました。

さらに、なぜラット由来の細胞が排除されるのかを調べました。すると、別の種の環境に置かれた細胞では、細胞表面に、マクロファージに「排除してください」と知らせる目印となるホスファチジルセリンが増え、それをマクロファージが認識していることが分かりました。

そこで研究チームは、遺伝子操作によってマウス胚のマクロファージを減らすなど、ゼノファゴサイトーシスを抑える方法を試しました。すると、ラット由来の細胞がマウスの体内に残りやすくなりました。さらに、マウス体内でラット由来の膵臓ができた割合は38%から73%に高まり、形成された膵臓も大きくなりました。

今後の展望

今回の研究から、発生のごく早い段階から、免疫細胞が別の種の細胞を排除し、その成長を妨げていることが分かりました。これは、動物の体内で別の動物の細胞から臓器をつくるうえで、これまで十分に知られていなかった課題です。

ヒトの細胞をマウスの胚に入れた実験でも、ゼノファゴサイトーシスを抑えると、ヒトの細胞が残りやすくなりました。ただし、ヒトとマウスの間にはほかにも解決すべき課題があり、すぐにヒトの臓器をつくれる段階ではありません。

こうした課題を一つずつ明らかにし、解決していくことが、将来、臓器不全の患者さんに新しい治療の選択肢を届けることにつながります。また、発生の早い段階で、なぜ別の種の細胞を排除する仕組みが働くのかを知る手がかりにもなります。

研究者のひとこと

マウスの体内でラットの膵臓をつくる研究を発表し、将来はヒトの臓器をブタの体内でつくるという構想を提唱した当時は、「まるでサイエンスフィクションの世界だ」と言われました。それから16年。研究は一歩ずつですが着実に進み、ようやく実現への道筋が見え始めてきたことを、とてもうれしく思っています。

このような研究は、すぐに成果が出るものではありません。実現まで長い時間を要する、いわばムーンショット的な挑戦です。こうした長期的で挑戦的な研究を支えてくださった国の研究支援機関に心から感謝しています。

まだ解決しなければならない課題はたくさんありますが、いつの日か、臓器移植を必要とする患者さんに必要な臓器を届けられるよう、一歩ずつ研究を進めていきたいと思います。
(中内啓光:東京科学大学 総合研究院 高等研究府 幹細胞治療研究室 特別栄誉教授)

中内啓光特別栄誉教授
中内啓光特別栄誉教授(前列左から3人目)と研究室のメンバー、スタンフォード大学の研究者とともに。ハーバード大学マサチューセッツ総合病院に転出することになった新妻研究員一家の送別会にて。

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