どんな研究?
材料の中には、原子1個分ぐらいまで薄くすると、塊の状態とはまったく異なる性質を示すものがあります。セレン化鉄(FeSe)もその一つです。厚さを1ナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)以下まで薄くすると、材料の両端に温度差をつけたときに電気を生み出す性能が高まることが知られていました。
しかし、高い性能が現れるのは原子1個分の厚みしかない原子層(原子層薄膜)の状態の時だけでした。発電装置に組み込める大きさや厚みの材料に加工しようとするとFeSeの原子層が重なり合い、原子層が持っていた高性能が失われます。これは、実際の利用につなげる時の課題となっていました。
そこで東京科学大学(Science Tokyo)の片瀬貴義(かたせ・たかよし)教授らの研究チームは、1ナノメートル以下のFeSeの原子層薄膜が、結晶の中に何層も閉じ込められているTlFe₁.₆Se₂という材料に注目しました。薄い層を一枚だけ使うのではなく、その特徴を保ったまま塊の中に組み込めるなら、扱いやすい材料として原子一層の性能を引き出せるのではないかと考えました。
ここが重要
TlFe₁.₆Se₂に閉じ込められているFeSe単原子層には、ところどころに鉄原子が抜けた場所があります。一般に、原子の欠けた場所は材料の欠点と思われがちです。しかし研究グループが詳しく調べたところ、鉄原子がどのように抜けているかが、電気や熱の流れを調節する重要な仕組みになっていました。
まず、TlFe₁.₆Se₂では、鉄原子の抜けた場所が規則正しく並ぶことで、材料の両端の温度差を電気に変える力が高まりました。その指標は塊状FeSeと比べて約30倍になりました。
一方、温度差から効率よく電気を生み出すには、電気を生み出す力だけでなく、材料の中を熱が簡単に通り抜けないことも重要です。熱がすぐに反対側へ伝わると、発電に必要な両端の温度差が小さくなってしまうためです。
この材料では、FeSeの薄い層の間にある重いタリウム原子が周囲と弱く結びついているため、熱を運ぶ原子の振動が結晶の中をスムーズに進みにくくなっていました。さらに、鉄原子が一部抜けていることで、周囲の原子どうしの結びつきに強弱が生まれます。このふぞろいな構造が原子の振動を途中で散らし、熱をいっそう伝わりにくくしていました。
その結果、温度差を電気に変える力が高まると同時に、発電に必要な温度差も保ちやすくなりました。これら2つの効果が組み合わさり、総合的な熱電性能は塊状FeSeの約100倍に向上しました。
今後の展望
今回の材料を発電装置などへ利用するためには、性能をさらに高める必要があります。今後は、鉄原子が抜ける割合や、電気を運ぶ電子の量を調整し、より高い性能を引き出すことを目指します。
原子層を塊の内部に重ね、原子層内における原子の欠け方まで材料設計に利用する考え方は、ほかの材料にも応用できる可能性があります。これまで薄膜でしか利用できなかった性質を、実用的な材料に生かすための新たな手がかりになると期待されます。
研究者のひとこと
材料の欠陥は必ずしも悪いものではありません。その並び方をうまく利用すれば、電気や熱の流れを調整する仕組みに変えることができます。今回の研究では、極薄のFeSeが持つ特徴を、結晶の中に原子一層の構造として組み込むことで、塊状の材料でも引き出せる可能性を示せたことに、大きな手応えを感じています。
(片瀬貴義:東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 教授)
この研究をもっと詳しく知る
「みんなの科学ニュース」でほかの研究を知る
「みんなの科学ニュース」は、Science Tokyoの最先端の科学研究と未来につながる取り組みや可能性を紹介しています。
「みんなの科学ニュース」をXでも
Xアカウント「研究フロンティア」では、「みんなの科学ニュース」で公開した記事を取り上げ、Science Tokyoのさまざまな研究を定期的に紹介しています。
お問い合わせ
研究支援窓口