どんな研究?
一部のコンピューターのメモリでは、情報を記録するために磁気が使われています。。現在の磁気メモリには、電流を使って磁気の向きを切り替え、その違いを情報として記録する方式があります。
しかし、電流を流すと熱が発生し、エネルギーの一部が失われます。そこで、発熱によるエネルギーの損失を減らす方法として、大きな電流を流さず、電圧をかけて磁気の向きを変え、情報を書き込む技術が注目されています。
その実現に向けて研究されているのが、電気と磁気の性質が結びついた材料です。この材料の中では、プラスとマイナスの電荷の位置がわずかにずれ、電気的な偏りが生まれています。この偏りには向きがあり、強誘電分極と呼ばれます。これまでの研究から、電圧をかけて分極の向きを切り替えると、それに連動して磁気の向きも変わることが分かっていました。
ところが、この材料を非常に小さな粒にすると、話は複雑になります。分極が一方向にそろうのではなく、いくつもの領域に分かれ、中心に集まったり、渦のような配置になったりすることが知られていました。しかし、こうした複雑な分極の配置と磁気がどのように結びつき、電圧をかけると一緒にどう変化するのかは、十分に分かっていませんでした。
ここが重要
東京科学大学(Science Tokyo)の重松圭(しげまつ・けい)特定助教らの研究チームは、ペロブスカイト型と呼ばれる結晶構造を持つ、コバルト置換ビスマスフェライトという材料を使い、直径約190ナノメートル、1ミリメートルの約5000分の1という小さな粒を調べました。太陽電池でも耳にする「ペロブスカイト」という言葉は、実は材料そのものの名前ではなく、結晶構造のタイプを表しています。
粒の中では、分極が4つの領域に分かれ、それぞれが中心へ向かうように並んでいました。ところが電圧をかけると、分極の向きが反転し、今度は中心から外側へ広がる配置へと組み替わりました。
さらに、この変化に連動して、材料が持つ磁気の向きも変わりました。研究チームは高い分解能で磁気の方向を観察できる特殊な顕微鏡を使い、粒の面に沿った方向だけでなく、粒の内部から外部に向かう方向の磁気も反転する様子を初めて直接観察しました。
しかも、4つの領域の磁気が同じように動いたわけではありません。磁気は、それぞれ120度や180度など異なる角度で向きを変えていました。わずか190ナノメートルの粒の中で、分極の方向と磁気の方向が複雑に連動して動いていたのです。
今後の展望
大きな電流を流さず、電圧で磁気の向きを切り替えれば、発熱を抑え、消費電力の少ないメモリにつながります。さらに、今回観察された複雑な磁気の状態変化を思い通りに制御できるようになれば、0と1だけでなく複数の状態を使って情報を記録できるようになり、より高密度なメモリへの応用も期待できます。
ただし、現段階では磁気を狙った方向へ自由に切り替えられるわけではありません。複雑な動きを理解し、安定して制御することが次の課題です。
研究者のひとこと
アメリカの研究チームとの共同研究である本実験では、大陸の西端にあるUCバークレーと東端にあるノースイースタン大学の、それぞれの顕微鏡で電気、磁気観察を行いました。1ヵ月の間、僅か百ナノスケールの領域を観察するために飛行機で約6時間離れた大学を往来した経験は強く思い出に残っています。電気と磁気の向きが複雑に結みながらも、連動して向きが変わる様子を直接観察できたことに材料科学の面白さを実感しました。将来メモリ動作に向けて磁気を単純に制御する手法を広げていきたいと思います。
(イ・クモク(Lee Koomok):東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 外国人特別研究員PD)
本研究では、ナノメートルの物質のなかの電気・磁気の性質を明らかにすることを目標にしていました。このような実験はかつては非常に難しかったのですが、近年の科学技術の発展によって、測定方法の精度が向上したことが追い風となり、目的を達成することができました。得られた結果を活かして、材料が秘めている革新的な性能を引き出し、新しいメモリ材料の開発を進めていきます。
(重松圭:東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 特定助教)
この研究をもっと詳しく知る
重松圭特定助教の関連研究
東・山本研究室の関連研究
「みんなの科学ニュース」でほかの研究を知る
「みんなの科学ニュース」は、Science Tokyoの最先端の科学研究と未来につながる取り組みや可能性を紹介しています。
「みんなの科学ニュース」をXでも
Xアカウント「研究フロンティア」では、「みんなの科学ニュース」で公開した記事を取り上げ、Science Tokyoのさまざまな研究を定期的に紹介しています。
お問い合わせ
研究支援窓口