東京科学大学(Science Tokyo)アントレプレナーシップ教育機構(以下アントレ機構)人材エコシステム連携室は、2026年9月16日、東京国際空港(羽田)新整備場地区にある日本航空(以下JAL)メインテナンスセンター1で、アントレ機構認定講座「ボルト1本から未来の空へ!JAL格納庫見学×サステナブルな航空戦略」を開催しました。
この講座は、JALの整備場で最新の整備技術や整備システムを見学し、空の安全を守りつつサステナブルな運航を実現することの重要性を学ぶとともに、本学卒業生の社員の方々の講演を通して航空会社での仕事について理解を深め、本学学生が自身のキャリアを考える機会とすることを目的に企画したものです。定員の2倍に及ぶ学生から応募があり、希望理由などをもとにした選抜を経て、医歯学系の学生を含む30名が参加しました。当日は本学卒業生4名による講演の後、実際に整備場を見学しました。
講演
講演の行われたJAL SKY MUSEUM航空教室の大きな窓からは飛行機の離着陸が間近に見え、入室後参加者のテンションが一気に上がりました。
講演者:
・上田太郎氏(日本航空株式会社 運航本部 運航基準技術部、2014年本学総合理工学研究科修士課程修了)
・杉山智美氏(株式会社JALエンジニアリング 技術部、2017年本学理工学研究科修士課程修了)
・中田康太氏(株式会社JALエンジニアリング 企画財務部、2020年本学生命理工学院修士課程修了)
・伊藤翔人氏(株式会社JALエンジニアリング 羽田航空機整備センター 機体点検整備部、2023年本学理学院物理学系修士課程修了)
講演では、整備業務に携わる講演者から、航空会社と航空機メーカーの違い、エアラインエンジニアの業務や役割、機体の改良や改修の判断基準、量子コンピューティング技術を活用した整備計画の最適化などについての説明を受けました。また、運航データから故障の兆候を捉える予測整備や、AIによるエンジンの内視鏡画像解析といった最新の技術が紹介されました。
さらに、整備の知見を生かした事業展開として、外国の航空会社からの受託整備や宇宙分野への技術展開、航空機で使われた部品や素材を新たな製品に生かす取り組みも紹介されました。
エアラインエンジニアが高い専門性を有し、安全で快適な運航を支える重要な仕事であることがよく理解できました。
講演者それぞれのキャリアについても伺い、航空会社を就職先として選んだ理由、これまでに携わった業務、整備士資格の取得、やりがいや苦労の話題とともに、JALでは多くの本学卒業生がパイロットを含めた多様な分野で活躍していることを聞き、参加者はメモを取りながら熱心に聞き入っていました。
また、社員が新規事業を提案する社内起業制度の紹介があり、エンジニアの専門性を生かして活躍できる場が社内に幅広く存在することに、参加者は大きな刺激を受けたようでした。
整備場見学
整備場では、講演者3人の案内で、整備中の機体を見学しました。機体の周囲や翼の下に大がかりな足場を組んで作業をしている様子や、ジェットエンジンのカウリングを外して内部を点検する様子を見学しました。
事前の講演で、機体整備には運航整備(到着から次の出発までの間や夜間に行うもの)と点検整備(一定期間運航計画から外して詳しく分解・点検・修理を行うもの)の2種類があると聞いており、今回は両方の整備の現場を見学できました。
ボーイング777型機の大きな機体を間近に見ながら、整備士の方々が実際に作業している様子や、エンジンのファンや補機の配置、タービンの冷却、その他さまざまな部品や装置、作業の内容についての説明を受けました。
安全な運航のために大変緻密な点検が行われていること、想像以上に女性の整備士が多いことなど、現場を見たからこその気付きも多くありました。
また、見学中も参加者の質問が講演者に絶えず寄せられ、中には素材の腐食や耐熱性といった専門的な質問もありました。
質疑応答
整備場見学後の質疑応答では、参加者からさまざまな質問があり、講演者3名に回答していただきました。特にキャリアに関する質問が多く、学生時代にさまざまな経験をしてキャリアの選択肢を広げることが大切であり、社会に出てからもさまざまな可能性が広がっているなどの回答があり、参加者にとって非常に有意義な時間となりました。
参加者のコメント
・深夜でもシフトを組んで、たくさんの職員が交代で整備をしているのが、非常に大変で重要な仕事だと感じた。 JALグループの他にも関連企業に整備を委託しているとは知らず、本当に多くの人が携わって飛行機が飛んでいるのだと強く感じた。
・機体や部品の保守管理が、長期的な点検と1日程度の短期的な点検とに明確に分けられ、計画的に格納庫へ入れられている体制を初めて知り驚きました。大学で無機材料の研究をしている立場から、航空機が晒される過酷な環境を考慮し、経年変化を監視する必要性は理解していましたが、それを安全運航だけでなく定時運航(ダウンタイムの最小化)と両立させる高度な運用システムとして確立している点に感銘を受けました。日々の空の安全は、単なる機体の頑丈さだけでなく、こうした時間軸の異なる点検の組み合わせによって守られているのだと実感しました。
・規模の大きな格納庫や飛行機も印象に残りましたが、格納庫内では燃えにくい車が走っていること、台風に備えるときには飛行機に燃料を入れて重量を大きくすることなどの裏話が特に面白かった。
・今回の見学で特に印象に残ったのは、航空機は故障してから修理するのではなく、運航中に得られる大量のデータを分析し、故障の可能性を事前に予測して整備を行う予測整備です。これまでは航空機の安全は主に厳格な点検や整備によって守られていると考えていましたが、実際には安全運航と定時運航を両立するために、データ分析やAIなども活用していることを知りました。また部品の状態や整備に必要な時間、人員、運航計画などを総合的に考え、最適なタイミングで整備する必要があるという点も印象的でした。普段なにげなく利用しているフライトの定時運航の裏側に、多くの専門家による判断と工夫が積み重ねられていることを実感しました。
・航空機の整備は思ったより機械化が進んでいるが、機械の利点と人間の利点をうまく組みあわせて確実にミスが起こらないような仕組みが導入されていることを知った。乗客が普段目にしない格納庫や整備士の人たちが航空機の運航を支えていることを知り、今後航空機に搭乗するときはこれら航空機を陰で支えている人たちのことも意識して感謝しようと感じた。
・安全運航のために、定期的に航空機の全パーツを分解し、検査していることはいままで知りませんでした。時間をかけてさまざまな検査を実施することは、機体を外側から検査するだけでは見つけることのできない異常を発見することに繋がることだと感じました。また、航空会社がこのような検査を実施しているからこそ、乗客は安心して航空機を利用することができ、航空機事故を防いでいることがわかりました。
・将来のキャリアに向けた活動として特に印象に残ったのは、AIやデータ分析などの新しい技術を航空機の整備に取り入れていることです。例えば、エンジンの内視鏡画像をAIで解析して異常を発見したり、航空機から得られるデータを利用して故障を予測したりする取り組みを紹介されました。 航空機の整備にはこれまで長年蓄積されてきた技術者の経験や専門知識が不可欠ですが、それらをデータやAIと組みあわせることで、より効率的で精度の高い整備につながると感じました。技術者の専門性を新しい技術で置き換えるのではなく、両者を組みあわせて安全性と効率を高めようとしている点に、航空業界の将来性を感じました。
・廃材を活用してグッズ化・販売する取り組みや、部品の劣化を予測して不具合が起きる前に交換を行う取り組みが、まさに将来に向けた活動だと感じました。 その理由は、航空機に求められる絶対的な安全性を妥協しない一方で、環境負荷低減(廃棄物の削減)と経済性(一律の全交換を避けるコスト調整)の両立を図る姿勢を目の当たりにしたからです。データに基づいて劣化を予測し「安全・環境・コストのバランス」を調整しながら持続可能な運航を目指すJALの取り組みは、これからの社会インフラが目指すべき優れたモデルケースになると感じました。
アントレ機構では、本学アントレプレナーシップ教育の5つの要素である「先見性」「国際性」「リーダーシップ」「価値創造」「キャリア構築」に関わる講演/セミナー/講座を「機構認定講座」として開催しています。今後も「社会共修」「異分野共修」「国際共修」の場を提供することを通じて、本学学生のアントレプレナーシップを涵養することを目指します。