折り紙のように広がる宇宙アンテナ ― 小型衛星を変える「超軽量展開アンテナ」の挑戦

2026年7月3日 公開

カバンに入るほど小さな衛星から、地球へ強力な電波を届ける

どんな研究?

スマートフォンで地図を見たり、天気予報を受け取ったりできるのは、宇宙にある人工衛星のおかげです。最近では、手のひらサイズに近い小さな人工衛星も活躍し始めています。

しかし、小型衛星には小型ならではの大きな悩みがあります。その悩みとは、遠く離れた地球と通信するには高性能なアンテナが必要になることです。ところが、高性能なアンテナほど大きくなりやすく、小さな衛星には載せにくいという問題がありました。さらに、ロケットに積める重さや収納スペースには限界があります。つまり、「小さくて軽いのに高性能」という難しい条件を満たさなければならないのです。

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東京科学大学(Science Tokyo)の戸村崇(とむら・たかし)准教授と坂本啓(さかもと・ひらく)教授らの研究チームは、この課題を解決するため、「薄い膜」を使ったアンテナに着目しました。薄い膜なら、小さく折りたたんで収納し、宇宙で大きく広げることができます。実際に、日本の宇宙探査機「IKAROS」でも、折りたたんだ膜を宇宙で広げる技術が使われました。戸村准教授らは、この発想をさらに発展させ、折り紙のようにコンパクトにたためるアンテナを開発しました(図1)。

図1:今回開発された、超小型衛星搭載用のアンテナ。手のひらサイズに収納できる一方、展開すると50cm四方まで広がる。重さはわずか64g。

ここが重要

開発にあたって、研究チームは大きな難題に直面しました。薄い膜は軽くできる一方で、宇宙で広げたときにシワやゆがみが生じやすいのです。アンテナは少し形が崩れるだけでも性能が大きく低下してしまいます。

そこで研究チームは、「フラッシャー」と呼ばれる折り紙構造を採用しました。これは、折りたたみ傘のように小さく収納でき、広げると大きな面積を確保できる構造です。

近年では、折り紙の折り方を工学に応用する「折り紙工学」も注目されています。フラッシャー構造は、四隅を軽く引っ張るだけで小さく折りたたんだ構造を展開でき、軽量化と高い性能の両立につながりました。

さらに、この研究の大きなポイントは、「本当に宇宙で使えるか」を実機で確かめたことです。今回の研究では、衛星本体や展開構造まで含めた試作機を製作し、ロケットによる打上げ時の激しい振動に耐えられるかを調べる振動試験や、宇宙空間のような真空・温度環境で問題が起きないかを調べる熱真空試験を行いました。そのうえで、実際に電波の性能を地上で測定しました。その結果、宇宙空間でも安定した通信を実現する性能を有することを確認しました。しかも、アンテナ全体の重さはわずか64グラムです。

今回開発されたアンテナには、人の髪の毛ほどの非常に薄い膜が使われており、折りたたみ時には非常に小さく収納できます。そのため、限られたロケットのスペースを有効活用でき、より多くの衛星や機器を宇宙へ運べる可能性があります。

今後の展望

この技術が実用化されれば、小型衛星による通信や地球観測が大きく進化すると期待されています。たとえば、多数の小型衛星を宇宙に配置することで、地球全体を広くカバーできるようになります。その結果、山間部や海上など、地上の通信基地局が届きにくい場所でも、インターネットにつながりやすくなる可能性があります。

これまで、「高性能な宇宙アンテナを作るには、大きく重い構造が必要」と考えられてきました。今回の研究は、折り紙のアイデアによって、その考え方を変える可能性があります。

研究者のひとこと

宇宙で使うアンテナには,「小さくたたんで、大きく広げる」という面白い工夫が求められます。今回の研究では、折り紙のような身近なアイデアとアンテナ技術を組み合わせることで、小さな衛星の可能性を広げることに挑戦しました。電波は目に見えませんが、宇宙と地球をつなぐ大切な役割を担っています。この記事をきっかけに、アンテナや宇宙、ものづくりの面白さを少しでも感じてもらえたらうれしいです。
(戸村崇:東京科学大学 工学院 電気電子系 准教授)

戸村崇准教授

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