東京科学大学は、2025年度(第13回)「Science Tokyoの星」特別賞【STAR】(Special Award for Science Tokyo Advanced Researchers)の受賞者に、情報理工学院情報工学系の小野峻佑准教授、総合研究院フロンティア材料研究所の田原正樹准教授、総合研究院の三宅健介准教授の3人を理事長およびリサーチディベロップメント機構長の協議により選考し、2月20日に発表しました。
「Science Tokyoの星」特別賞【STAR】とは、東京科学大学基金を活用し、将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者や、基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者へ大型研究費の補助を行い、次世代を担う本学の輝く「星」を支援していくものです。
受賞者の研究概要とコメント
情報理工学院 情報工学系 小野峻佑 准教授
研究テーマ :「数理計測情報学の創成:計測×情報パラダイムを世界へ」
研究概要
最望遠鏡が地動説を、顕微鏡が細菌学を、原子時計がGPSを生み出したように、計測技術の進歩は科学的発見や社会変革の原動力となってきました。現在ではブラックホールの撮像や1分子イメージングなど、あらゆる時空間スケールでデータが取得されていますが、先端的な計測には、ノイズ・欠損・外乱といった根本的な課題が原理的に伴います。つまり、生データからそのまま有用な知識を引き出すことは非常に困難なのです。私の研究は、こうした不完全な計測データから信頼性・妥当性・説明性の高い信号情報を復元・抽出するための数理的技術の開発に取り組むものです。具体的には、計測データ解析のための制約付き最適化アルゴリズムの開発、最適化技術と深層学習技術を融合したPlug-and-Playアルゴリズムの理論保証、衛星リモートセンシングにおけるロバストな解析手法の確立、さらにX線CTやNMR計測など異分野の計測技術への応用展開を行ってきました。今後は、現状の数理最適化技術が抱えるジレンマを解決する鍵として、DC(Difference-of-Convex)モデルに着目した「近接分離型DC最適化基盤」の確立を目指すと同時に、この基盤をリモートセンシング、材料イメージング、分光顕微鏡、流体計測など多様な計測ドメインに展開します。このように、理論と応用のフィードバックループを回しながら、「数理が計測を導き、計測が数理を育てる」という循環を実現することで、日本発の"計測×情報パラダイム"を世界へ発信し、未来社会の科学技術に持続的なインパクトを与えていきたいと考えています。
受賞のコメント
このたびは「Science Tokyoの星」特別賞【STAR】に採択いただき、大変光栄に存じます。東京科学大学基金から研究費を使わせていただくことの重みを感じております。寄附者の皆様の思いを形に変えるべく、計測と情報を数理で繋ぐ新しい学術基盤の創成に向けて、これからも挑戦し続けていきたいと思います。東京科学大学基金の寄附者の皆さま、選考委員の皆さま、これまでご指導くださった先生方、共同研究者の皆さま、そして一緒に研究を進めている研究室メンバーに、この場をお借りして心より感謝申し上げます。
総合研究院 フロンティア材料研究所(未来産業技術研究所) 田原正樹 准教授
研究テーマ :「形状記憶合金の動作原理の追究と機能開拓」
研究概要
形状記憶合金は、「曲げても、温めると元の形に戻る」という不思議な性質をもつ金属です。すでに医療用ステントやメガネフレームなどに使われていますが、その仕組みには、まだ十分に理解されていない部分が残されています。私の研究は、「なぜ金属が形を覚えられるのか」という基本的な問いに正面から向き合い、その動作原理をより深く解き明かすことを目的としています。
目に見える“形の変化”の裏側で、金属の内部ではどのような変化が起きているのか。それを丁寧に観察し、整理し、原理として説明することを目指しています。動作の本質を理解できれば、これまで経験的に作られてきた材料を、「狙った通りに設計できる材料」へと進化させることができます。たとえば、より小さな温度変化で確実に動く材料、長期間使っても性能が落ちにくい材料、繰り返し変形に強い材料など、新しい機能をもつ形状記憶合金の開発につながります。こうした材料は、低侵襲医療機器、ロボットのアクチュエータ、航空宇宙分野の軽量可動部材、省エネルギー機構など、さまざまな分野での応用が期待されています。温度変化や環境の変化に応じて“自ら動く金属”は、これからの持続可能社会において重要な役割を果たす可能性があります。基礎原理の理解と機能開拓を両輪として進めることで、形状記憶合金の可能性をさらに広げ、社会に役立つ新しい材料設計へとつなげていきたいと考えています。
受賞のコメント
このたびは「Science Tokyo の星」に採択いただき、大変光栄に存じます。東京科学大学基金から研究費を使わせていただくことの重みを強く感じております。本賞は、寄附者の皆さまの温かいご支援により成り立っています。皆さまの思いを、研究成果として社会に還元できるよう、基礎に立脚しながらも挑戦的な研究を粘り強く進めてまいります。また、日頃よりご指導くださっている先生方、共同研究者の皆さま、そして一緒に研究を進めている研究室メンバーに、この場をお借りして心より感謝申し上げます。このご支援を力に変え、次世代を担う研究として育てていけるよう、一層精進してまいります。
総合研究院 三宅健介 准教授
研究テーマ :「1細胞解析の活用による 好塩基球の分化・炎症制御機構の解明」
研究概要
私たちの体の中では、さまざまな免疫細胞が血液中を巡り、外から侵入する病原体から体を守っています。その中でも「好塩基球」は、全体のわずか0.5%ほどしか存在しない非常に希少な免疫細胞です。140年以上前にドイツの病理学者パウル・エールリッヒによって発見されましたが、数が少ないため、その役割は長い間ほとんど分かっていませんでした。私たちは、好塩基球だけを選択的に除去できるマウスを用いることで、好塩基球が少数ながらも他の炎症細胞をまとめる「司令塔」のような働きを持ち、アトピー性皮膚炎などのアレルギー発症に重要であることを明らかにしました。
さらに私たちは、細胞を一つひとつ分けて遺伝子の働きを調べる「1細胞RNAシーケンス」という最新技術を活用しました。その結果、好塩基球がどのように体内で生まれ、成熟していくのかを解明し、新たな前駆細胞「プレ好塩基球」を発見しました。また、炎症を起こした皮膚や肺を1細胞レベルで解析することで、好塩基球がアレルギーを引き起こす“悪玉”として働く場合だけでなく、状況によっては炎症を鎮める“善玉”としても機能することを見いだしました。
これらの成果により、好塩基球はアレルギー治療の新たな標的となる可能性が注目されています。今後も最先端の1細胞解析技術を活用し、謎の多い好塩基球の働きをさらに解明し、新しいアレルギー治療法の開発につなげていきたいと考えています。
受賞のコメント
このたびは「Science Tokyoの星」特別賞【STAR】という栄誉ある賞に採択頂き、大変光栄に存じます。東京科学大学基金から貴重な研究費を使わせていただき、希少免疫細胞である好塩基球の謎を解き明かす挑戦を続けていきたいと思います。東京科学大学基金寄附者の皆さま、ならびに選考委員の皆さま、これまでご指導くださった先生方、共同研究者の皆さま、そして一緒に研究を進めている研究室メンバーに、この場をお借りして心より感謝申し上げます。
「Science Tokyoの星」特別賞【STAR】の概要
目的
東京科学大学基金を活用し、本学における優秀な若手研究者への大型支援を実施することにより、本学の中期目標である基礎的・基盤的領域の多様で独創的な研究成果に基づいた新しい価値の創造を促進し、もって、理事長の方針に基づく本学の研究力強化に資することを目的とします。
対象者
公募によらず、さまざまな業績を勘案し、理事長およびリサーチディベロップメント機構長の協議により決定します。
- 将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者
- 基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者
役職等
准教授以下(原則40歳以下)とします。
- ※2024年度より「東工大の星」特別賞【STAR】として実施してきた本賞は、統合に伴い「Science Tokyoの星」特別賞【STAR】に名称を変更し、2025年度より医歯学系に支援範囲を広げて実施しています。