未知の触媒をつくりだせ:新たなAI「CatDRX」を開発

2026年4月3日 公開

「どうすればいい?」に応える、化学を思考するAIの誕生

どんな研究?

工場で原料が混ざり合い、熱が立ちのぼり、新しい物質が生まれる――その裏側で働いているのが「触媒」です。触媒は化学反応を速く、効率よく進める重要な存在ですが、最適な触媒を見つけるのは簡単ではありません。

これまでの触媒開発は、研究者が候補を考え、何度も実験を繰り返す試行錯誤型の開発が中心でした。理論的な計算も使われてきましたが、膨大な計算時間が必要で、複雑な反応をいくつも予測して触媒を提案するには、スーパーコンピュータ級の計算が必要になることもありました。近年はAIも導入されましたが、多くは既存データの範囲内で、何がより良いのかを予測するものであり、「未知の触媒を設計する」AIではありませんでした。

Gorodenkoff/Sutterstock.com

そこで、東京科学大学(Science Tokyo)の大上雅史(おおうえ・まさひと)准教授らの研究チームは、新しいAIフレームワーク「CatDRX」を開発しました。このCatDRXは、大量のデータで化学の基礎を学習し、データの少ない化学反応についても思考することができる新しいAIです。

ここが重要

最大のポイントは、「反応条件を理解した上で触媒を設計できる」ことです。CatDRXは、反応物や生成物、試薬などの情報を読み取り、化学反応を理解して適した触媒構造を提案し、生成した候補を化学の知識でふるいにかけます。研究チームは、提案された触媒を理論計算で確認して、AIの思考が正しいのかを検証しました。従来はAIを使っても提案できなかった触媒であっても、「この反応を成功させたい」というゴールから出発し、そこにたどり着く触媒を探しにいく「逆算」方法を確立したのです。

研究の最大の難関は、「CatDRXが本当に新しい触媒を考え出せるのか」という点でした。既存データの単なる組み合わせでは意味がありません。そこで研究チームは、世界中の多様な化学反応データを使ってCatDRXに事前に広く学習させるという戦略を選びました。この「事前学習」によって、限られたデータしかない未知の反応に対しても、高い精度で答えを導き出せるようになりました。

CatDRXは「この原料の組み合わせなら、こういうタイプの触媒が合いやすい」といった傾向を自ら見つけ出せるAIです。反応ごとに、どんな形や性質の触媒が向いているのかを区別できるのです。これは、CatDRXが化学反応の相性を理解し始め、化学を思考していることを意味します。

今後の展望

この技術は、化学・製薬産業での新触媒開発を加速させます。反応効率が上がれば、廃棄物やエネルギー消費も減らせます。また、環境にやさしいものづくりの実現にもつながります。

経験や勘に頼って候補を探す時代から、目的を明確にし、データを活用して有望な選択肢を絞り込む時代へ、触媒研究の進め方そのものが変わろうとしています。

研究者のひとこと

物質の設計は、これまでずっと専門家の経験と勘に支えられてきましたし、今なおそれは重要です。私たちは、そのような専門家の知恵をAIと結びつけることで、研究分野をもっと前へ進められるのではないかと考えています。AIは、単に答えを予想する機械から、新しい視点を与えてくれる存在へと変わってきています。人間の想像力と組み合わさることで、まだ誰も見たことのない触媒の発見にたどり着けると信じています。
(大上雅史:東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 准教授)

大上雅史准教授

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