第5回インペリアル・カレッジ・ロンドンとの博士後期課程学生交流プログラム(Imperial-Science Tokyo Global Fellows Programme 2025)を実施
2025年11月10日から11 月14日にかけて、第5回インペリアル・カレッジ・ロンドンとの博士後期課程学生交流プログラム(Imperial-Science Tokyo Global Fellows Programme 2025) を実施しました。
本プログラムは、東京科学大学と英国インペリアル・カレッジ・ロンドン(以下、インペリアル)が共同で2018年に立ち上げた合宿トレーニング型国際交流プログラムであり、専門分野や国籍の垣根を超えたコミュニケーション力の醸成やリーダシップの育成、若手研究者のネットワーク構築等を目的としています。
2018 年の東京、2019 年のロンドン開催後、コロナの影響による 3 年間の実施中止を経て、2023 年、2024 年にそれぞれ、東京、ロンドンで開催し、今回の東京開催が 5 回目のプログラム開催となります。
国連が提言する持続可能な発展に向けた世界を変える17の目標SDGs(Sustainable Development Goals)をプログラムのテーマとして取り上げている本プログラム。今回のテーマは「#12. Sustainable consumption and production」に関連した「Sustainability Innovation for Food Consumption and Production」(持続可能な食の消費と生産を可能にするイノベーション)。東京代々木にある、国立オリンピック記念青少年総合センター(以下、オリンピックセンター)と本学大岡山キャンパスで実施されました。
東京科学大学とインペリアルから各15名、計30名の博士後期課程学生が集いました。この5日間のプログラムで、参加者はテーマに関する講義聴講や専門家との意見交換、関連施設見学等を通じて、食の生産や消費の現状や課題、また、課題解決のための様々な取り組みや研究について理解を深めました。最終日にはSustainability Innovation for Food Consumption and Production を提案するプロジェクトを各チームが発表し、異なるバックグラウンドを持つ者同士がチームとして協働することの楽しさや難しさを見出し、充実した5日間となりました。
なお、本学においては、リベラルアーツ研究教育院の猪原健弘教授、金子宏直准教授、環境・社会理工学院のブンユボル・サシパ特任講師、国際教育課のスタッフが参画し、インペリアル・カレッジ・ロンドンのGlobal Fellows Programmeと本学リベラルアーツ研究教育院が開講している博士文系教養科目「Global Camp 2」を基にプログラムを実施しました。
1日目:持続可能な食の消費と生産を可能にするイノベーションについて学ぶ
本学とインペリアルからの参加学生30名と両学の担当教職員がオリンピックセンターに一同に会し、いよいよプログラムが始まりました。開会セレモニーの後、参加者は専門分野や国籍などの多様性を考慮した、各6名の学生で構成された5チームに分けられました。チームでアイスブレーキングのアクティビティに挑戦し、さらにお互いの研究活動を紹介し合うことで、初対面の緊張感は薄れ、すぐに打ち解けていきました。
アイスブレーキングの後には、林宣宏副学長(国際戦略・連携担当)が2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学の統合により誕生した、東京科学大学の概要を説明し、2025年に始動した、分野横断・融合により社会との共創を目指す研究体制「Visionary Initiatives(VI)」を、今回のテーマに関連づけて紹介しました。
午後は早速、今回のテーマである「持続可能な食の消費と生産を可能にするイノベーション」について学びました。農研機構農業情報研究センターの高山茂伸センター長は同センターの農業情報技術の取り組み例として、気象や農地、収量予測など農業に役立つ農業データ連携プラットフォーム「WAGRI」や「農業向け生成AI」を紹介し、その導入状況や成果について説明しました。
続いて、その分野の第一線で研究を行う、Science Tokyo の研究者 4 名からレクチャーを受けました。異なる分野の研究者の話を聞き、持続可能な食の消費や生産を実現するために、各分野で取り組まれている研究、それらの課題等について多方面の知識を吸収する貴重な機会となりました。
ヴィナイアーク・グプタ特任講師(環境・社会理工学院)(写真左から右)
グプタ講師は2023年に東京で開催されたGFPの参加者。2024年4月から7月、インペリアルのダイソン・スクール・オブ・エンジニアリングの研究室に滞在し、2025年3月に本学博士課程を修了後、現在は環境・社会理工学院で特任講師を務めています。今回は講師として参加し、自身がインペリアルでの短期研究滞在で行った、ワイン醸造工程で発生する、酵母滓やブドウ廃棄物を用いた皮革作りについて講義をしました。
初日最後には、金子准教授考案のカードゲームを全員で行いました。学生達は持続可能な食の消費と生産に関するファクトを調べ、それを基に質問と回答の 2 種類のカードを作り、クイズ形式でゲームを楽しみました。
2日目:チーム力強化
2日目の午前中は5つの課題をチームでクリアしていくゲーム型のアクティビティが行われました。いずれもコミュニケーション力やチーム内で協力しあえる信頼関係ができているかがカギとなります。本学の猪原健弘教授考案の研究倫理について正しく理解するアクティビティもその中の一つでした。参加者達は頭を悩ませながらも互いに声を掛け合って課題に取り組み、終了後にはチームとしての一体感が飛躍的に高まったようでした。また、昨年ロンドンでGFPに参加した本学の博士課程学生3名がゲームの進行役として参加しました。
午後は、埼玉県で江戸時代中期の1789年から12代にわたって伝統的な醸造方法を継承し、醤油を製造している、笛木醤油株式会社が運営している「金笛しょうゆパーク」へ行きました。「Shoyu」として、世界中で親しまれている日本の発酵調味料、醤油。杉の木桶を使った伝統的な醤油の醸造工程を実際に見て、木桶や蔵内の環境に応じて味が変わる、醤油づくりの奥深さに感動していました。
3日目:チームプロジェクトに取り組む
3日目の午前中は、オリンピックセンター近くにある、明治神宮での散策を楽しんだ後、各チームが取り組むプロジェクトについてディスカッションを行いました。
午後は、チキンラーメンやカップヌードルなどを世界的に販売している、日本の加工食品メーカー「日清食品」のビヨンドフード事業部副事業部長の中村洋一さんから、同社の「最適化栄養食プロジェクト」の製品「完全メシ」の特長と現代人が抱える栄養と健康に関連した様々な社会問題への同社の取り組みについて話を聞きました。学生からは、同社の製造コストや品質の管理、フードロスへの取り組み、ローカライズの状況、同社の超加工食品に関する認識、各国でのマーケティング手法の違いなどについて、予定時間を超えて、多くの質問がありました。
その後、オリンピックセンター内にある「桜花亭」で「茶道」を体験しました。畳敷きのお茶室で、講師の方に茶道の成り立ちや道具、作法について説明を受けた後、「秋」をテーマとした季節の生け花や出会いを大切にしてほしいという亭主の願いが込められた「一期一会」と書かれた掛け軸を鑑賞し、お茶菓子とともに薄茶を頂きました。
4日目:プロジェクトの集中検討とポスター製作
4日目は、いよいよグループプロジェクトに本格的に取り掛かります。前日までにチームでまとめた案を基にグループでブレインストーミングを行い、ディスカッションを重ねて、チームで一つのプロジェクトを組み立てていきました。専門性や国籍などが異なる、個性豊かなチームメンバーからは様々な意見が飛び交い、時には議論が白熱して一つのプロジェクトに絞り込むのに苦労している様子も見られましたが、皆が根気強くメンバーの意見に耳を傾け、各メンバーがチームに貢献しようとする姿勢を見せていました。
午後は、会場を東京科学大の大岡山キャンパスに移し、各チーム2名が他チームの前で自分たちのプロジェクトについて短いプレゼンテーション(ピッチ)を行いました。他のチームメンバーから出された質問やアドバイスを自分のチームへ持ち帰って、プロジェクトの再考を行い、最終発表に向けて、さらにディスカッションを重ね、最終発表に向けてポスター製作に取り掛かりました。
5日目: プロジェクト発表
最終日。プログラムの集大成となるプロジェクト発表を行いました。チーム内で作業分担しながらカラーペンと紙だけで発表用ポスターにまとめ上げ、5分間の発表に臨みました。インペリアルのポール・セルドン講師、東京科学大学の若林則幸理事・副学長(教育担当)、関口秀俊執行役副学長(教育担当)の3人が審査員を務めました。
各チームのオリジナリティー溢れるプロジェクト内容から、限られた時間内に参加学生達が真剣に議論を重ねた痕跡が見えるようでした。
全チームの発表が終わると、審査員からCollaboration 賞とInnovation/Creativity 賞の発表が行われ、「食品廃棄物からクリーンエネルギーを作り出す微生物燃料電池(microbial fuel cells)」を提案したチーム3がCollaboration賞を、「植物の健康状態をチェックするアプリを搭載した小型家庭用温室」を提案したチーム5がInnovation/Creativity 賞を受賞しました。該当チームには、トロフィーが授与され、また、参加者全員に修了証書が授与されました。
夕方開催された、フェアウェルパーティには、関口執行役副学長、林副学長とともに本プログラム初日に講義を担当した、農研機構農業情報研究センターの高山センター長、グプタ講師も参加し、5日間のプログラムを終えた学生たちと歓談しました。
各チームの代表者がチームメイトの健闘を称え、チームコーチやスタッフに感謝の言葉を伝えました。会の途中、動画にまとめられた写真を見ながら、5日間のプログラムを振り返り、時の流れの早さに驚きながらも、5日間をともに過ごした友人たちと思い出を共有し、再会を願っていました。
各日のフリータイムには、両大学の学生が連れ立って、カラオケや食事にいくなど、プログラム外でも交流は続きました。ここで築かれた学生たちのネットワークが未来の更なる研究交流を生むことを願ってプログラムは幕を閉じました。
なお、両学の参加者は2027年3月までに、1~3か月間、希望する各大学の研究室に滞在し、受入教員の指導のもと実地調査や研究を行う予定です。
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